山岳信仰や山岳の歴史は、日本の文化や宗教、さらには日常生活に深く根ざしてきました。山々は古来より神聖視され、多くの修験道者や巡礼者がその霊的な力を求めて足を運んできました。しかし、これらの山岳信仰や霊場の背後には、どのような歴史や考古学的証拠が存在するのでしょうか?この記事では、山岳信仰と考古学の交差点に焦点を当て、その深遠な関係性を明らかにする五つの鍵となる書籍を紹介します。これらの書籍を通じて、古代から現代にかけての日本の山岳文化の変遷と、それに関連する考古学的発見の重要性を探求していきます。

吉野と大峰: 山岳修験の考古学

東方出版
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『吉野と大峰: 山岳修験の考古学』は、森下 惠介(著)による2020年7月15日に東方出版から出版された書籍である。この作品は、日本の山岳修験(Mountain Asceticism)の重要な道場であり、世界遺産にも登録されている吉野大峰を中心に、その歴史と文化を考古学的に考察している。

本書は、現地踏査(on-site inspection)と発掘調査(archaeological excavation)の結果をもとに、信仰のベールに包まれたこの山域の実際の歴史を明らかにしている。特に「吉野・大峯への道」の章では、天王寺区清水寺の標石や、大阪・奈良に現存する112の道標を使って、かつての参詣路(pilgrimage route)を再現している。

内容以外にも、本書は口絵カラー4ページ、奥駈道の写真37点、地図・図版などの37点が収録されており、視覚的にも読者に情報を提供している。

著者、森下 惠介について簡単に触れると、彼は1957年奈良県生まれで、立命館大学文学部史学科を卒業後、1979年から奈良市教育委員会にて勤務し、大安寺旧境内や平城京跡の発掘に携わってきた。彼は「山の考古学」として、山と人々との関係を考古学的視点から探求しており、奈良の名所や観光史研究にもその視点を持ち込んでいる。彼は元奈良市埋蔵文化財調査センターの所長で、現在は奈良県立橿原考古学研究所の共同研究員として活動している。そして、『吉野 仙境の歴史』や『大安寺の歴史を探る』など、多くの著書を持っている。

『吉野と大峰: 山岳修験の考古学』は、山岳信仰や考古学に興味がある読者には非常に有益な情報を提供する一冊と言えるだろう。

山岳信仰と考古学III

同成社
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『山岳信仰と考古学III』は、山の考古学研究会が編集した書籍で、2020年6月25日に同成社から出版されました。この論文集は、山岳信仰(Mountain Worship)を中心としたテーマに基づき、故菅谷文則元橿原考古学研究所所長と関わりの深い研究者たちが、彼の追悼の意を込めて執筆したものです。全体として21篇の論文が収録されており、菅谷文則氏の絶筆も含まれています。

論文は様々な執筆者によって書かれており、それぞれが異なる視点やテーマから山岳信仰や考古学に関する深い洞察を提供しています。以下はその中からいくつかの注目すべき論文をピックアップしたものです。

  • 『山の考古学』(菅谷文則): この論文では、山岳考古学の基本的な枠組みや考え方について解説されています。
  • 『大峯山と修験道――信仰の原点――』(岡田悦雄): 大峯山を中心に、修験道(Shugendo)という宗教的な実践の起源や発展について考察されています。
  • 『神道考古学からみた大峯山』(茂木雅博): 大峯山を神道考古学の視点から見たときの特徴や意義についての論考です。
  • 『吉野・大峯の神仏分離』(森下惠介): 吉野や大峯における神道と仏教の関係やその変遷に関する研究です。
  • 『縄文人と山岳信仰――「山形の炉石」再考――』(櫛原功一): 縄文時代の人々の山岳信仰について、特定の考古学的遺物を中心に考察されています。

書籍の終わりには、大西貴夫によるあとがきが掲載されており、本書全体のまとめや反省点、今後の研究の方向性についての言及がなされています。

『山岳信仰と考古学III』は、山岳信仰や考古学に関心を持つ研究者や一般読者にとって、多岐にわたるテーマや視点からの新しい知見を得ることができる貴重な一冊となっています。

山岳霊場の考古学的研究

著:時枝 務
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『山岳霊場の考古学的研究』は、時枝 務(ときえだ つとむ)著による、日本の山岳霊場とそれに関連する信仰や歴史、文化についての深い探求を行った一冊です。山岳霊場は、日本の宗教的背景を示す重要な要素であり、日本人の心の中に根ざす信仰や価値観の手がかりとなる存在です。この本は、考古学的なアプローチを用いて、山岳霊場の背後に隠された真実や歴史について詳しく解説しています。

内容を細かく見ていくと、本書は大きく3つの部分に分かれています。

第Ⅰ部では、山岳霊場の概観として、山岳宗教の歴史や修験道について詳しく説明されています。特に、霊山と修験道、山岳信仰の起源や、山岳修行、江戸時代の霊山や修験道の活動など、時代ごとの変遷や背景が詳細に解説されています。

第Ⅱ部では、具体的な山岳宗教についての考古学的研究が展開されます。羽黒修験や日光男体山、富士山など、日本を代表する霊山や信仰の中心となる地域に焦点を当てて、考古学的な証拠や遺物を基にその歴史や信仰の背景を解明しています。

第Ⅲ部では、「霊場の考古学」と題して、霊場に関連する考古学的研究や課題を深堀りしています。具体的な霊場や山岳遺跡、納骨信仰遺跡などを通して、霊場が持つ歴史的・宗教的な背景や、それらが地域社会に与える影響について詳しく説明されています。

著者の時枝 務は、1958年群馬県生まれで、現在は立正大学文学部の教授として活躍しています。彼の主要な研究や著書には、『修験道の考古学的研究』や『山岳考古学』、『霊場の考古学』など、山岳や霊場に関する研究が数多くあり、この分野の第一人者として広く知られています。

『山岳霊場の考古学的研究』は、日本の山岳信仰や霊場に関する考古学的な研究を総合的に解説した重要な一冊です。歴史や宗教、文化に興味を持つ読者には、非常に価値のある情報が詰まっています。

山岳考古学―山岳遺跡研究の動向と課題 (考古調査ハンドブック) 

『山岳考古学―山岳遺跡研究の動向と課題 (考古調査ハンドブック)』は、時枝 務著による、山岳考古学の研究の成果と展開をまとめた本であり、ニューサイエンス社より2011年に発売されました。

山岳や山地は、古来から人々にとっての信仰の対象や生活資源として利用されてきました。この本は、そうした自然豊かな山岳・山地と人々との関係を、考古学的な方法を駆使して詳細に解き明かす試みとして書かれています。これにより、「山岳考古学」という新たな研究分野を明確に位置づけています。

本書は大きく三つの部分で構成されています。第1部「山岳考古学の構想」では、山岳考古学とはどのような学問であるか、その研究史や主な山岳遺跡の種類など、基本的な概念や背景を紹介しています。具体的には、山岳考古学の概念や研究史をはじめ、山岳遺跡の種類や山地を利用する文化や歴史を考古学的に捉える方法などが詳述されています。

第2部「日本の主要山岳遺跡」では、日本国内の主要な山岳遺跡54箇所の詳細な概要をまとめています。国見山廃寺、羽黒山頂遺跡、山寺立石寺、慧日寺など、多岐にわたる山岳遺跡が紹介されており、それぞれの遺跡が持つ歴史的・文化的背景や特徴が解説されています。

第3部「資料・山岳考古学文献一覧」では、山岳考古学に関する文献や資料が一覧として掲載されています。これにより、読者はさらに詳しい研究や情報を追求するための参考資料を容易に手にすることができます。

本書は、カラー口絵が巻頭に、関連文献一覧が巻末に掲載されており、ビジュアルとしても、情報的にも非常にリッチな内容となっています。山岳考古学に興味を持つ者や、山岳文化や歴史について詳しく学びたいと考える読者にとって、非常に価値ある一冊と言えるでしょう。

季刊考古学 第121号 特集:山寺の考古学

編集:時枝 務
¥2,640 (2023/10/22 17:25時点 | Amazon調べ)

『季刊考古学 第121号 特集:山寺の考古学』は、時枝 務が編集を手掛け、2012年に雄山閣から出版された学術雑誌の特集号です。この号は、長い歴史を持つ「山寺」というテーマに焦点を当て、その歴史的・考古学的な側面を詳細に探求しています。

山寺は、古代から中世にかけての日本の社会において、どのような役割を果たしてきたのか。それを明らかにするために、全国各地で行われた山寺の発掘調査の成果をもとに、山寺の変遷やその諸相についての考察が行われています。

総論として、時枝 務氏が「山寺研究の課題」について述べ、山寺の基本的な概念について牛山佳幸氏が詳解しています。

「山寺の空間」というセクションでは、山寺の空間構造について藤岡英礼氏が、仏堂や諸施設の特性について上野川 勝氏が、そして経塚や墓の複合遺跡、磨崖仏についてそれぞれ村木二郎氏と野澤 均氏が解説しています。

続く「山寺の諸相」のセクションでは、具体的な山寺遺跡、例えば山寺立石寺や霊山寺跡など、多数の遺跡についての詳細な調査結果や考察が紹介されています。

「山寺をめぐる諸問題」では、山寺とその周辺の宗教や文化に関する諸問題を取り扱い、例として大西貴夫氏が山林仏教と山寺の関係、荒木志伸氏が墨書土器を通じての山寺の研究、後藤健一氏が国分寺と山寺の関係性など、多岐にわたるトピックが扱われています。

そして最後のセクション「最近の発掘から」では、山寺とは直接関係ないものの、考古学的な発掘成果としての最新の知見が紹介されています。

この特集号は、山寺に関する研究の最前線を知ることができる一冊として、考古学者はもちろん、山寺や日本の古代・中世の歴史・文化に興味を持つ一般の読者にも非常に価値ある情報を提供しています。

まとめ

Mountain archaeology is a field of study that uses archaeological methods to elucidate the lives and beliefs of past peoples in mountains and mountainous regions.
山岳考古学は、山岳や山地における過去の人々の生活と信仰を、考古学的手法を用いて解明する学問分野です

山岳信仰と考古学の接点について、『吉野と大峰: 山岳修験の考古学』『山岳信仰と考古学III』『山岳霊場の考古学的研究』『山岳考古学―山岳遺跡研究の動向と課題 (考古調査ハンドブック)』『季刊考古学 第121号 特集:山寺の考古学』という五つの重要な書籍を通して、読者は深い理解を得ることができます。

『吉野と大峰: 山岳修験の考古学』は、日本の古代から中世にかけての山岳信仰の中心地である吉野と大峰の歴史的背景と考古学的発見に焦点を当てています。この書籍は、山岳修験(Mountain Asceticism)という独特の宗教的実践の起源と発展に関する考古学的な視点を提供します。

続いて、『山岳信仰と考古学III』は、日本の山岳信仰の多様性とその変遷を詳しく探求しています。この書籍は、考古学的発見を通じて、古代から近代にかけての日本の山岳信仰の複雑なネットワークを明らかにしています。

『山岳霊場の考古学的研究』では、日本の主要な山岳霊場の考古学的背景を詳細に解説しています。この書籍は、古代の霊的な場所としての山岳の重要性を強調し、その歴史的な変遷をトレースしています。

一方、『山岳考古学―山岳遺跡研究の動向と課題 (考古調査ハンドブック)』は、山岳遺跡研究の最新のトピックや課題に焦点を当てたガイドブックとしての役割を果たしています。これは、山岳考古学(Mountain Archaeology)のフィールドに新しく参入する研究者や学生にとって、非常に有用な一冊となっています。

最後に、『季刊考古学 第121号 特集:山寺の考古学』は、山寺とその考古学的背景についての詳細な研究を提供しています。この特集号は、山寺の歴史、構造、そしてそれに関連する社会的・宗教的な問題に関する幅広いトピックを取り扱っています。

これらの書籍を通じて、読者は日本の山岳信仰と考古学の間の深い関係性を理解することができます。これは、日本の文化や歴史における山の重要性を再評価するための鍵となる知識を提供してくれるものです。