我々が日常で感じ、経験するさまざまな事象や習慣、祭りや伝説、その背後には深い歴史や文化が潜んでいることを感じたことはありませんか?それは、日常の中の「民俗学」が働いているからです。民俗学(Folklore Studies)は、私たちの文化や歴史、伝承を通じて、私たちのアイデンティティや価値観を理解する手がかりを提供してくれる魅力的な学問です。

この記事では、その民俗学の奥深さをさらに探求するための5冊の書籍を紹介します。これらの書籍を通じて、あなたも民俗学の魅力に触れ、日常の中に隠れた文化や伝承の背景を発見する旅に出てみませんか?

民俗学入門 (岩波新書) 

岩波書店
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『民俗学入門』は、菊地暁(きくち あきら)によって執筆された一冊。岩波書店より2022年1月20日に出版された。本書は、民俗学という学問が注目する「人間にかかわることすべて」を、詳細に、かつわかりやすく解説するものである。

本書の核心は、「人々の歴史から世界を編みなおす」という視点。日常生活の中のさまざまな側面、普通の人々の生活の細部、繰り返される過ちなど、様々な事象に目を向け、それらを踏まえながら、よりよい未来を描こうというのが、民俗学の真髄である。この学問は、私たち一人一人が体験すること、感じることを大切にし、「私(たち)」自身が歴史や文化の一部として認識することを促す。

冒頭の部分では「せつなさ」と「しょうもなさ」の解明が試みられ、序章では民俗学という学問が伝えたい主要なテーマについて語られる。特に、日常生活における「衣・食・住」といった基本的な側面から、交通・運輸、交換・交易といった人々の生活を支える「なりわい」の戦略、さらには人々の「つながり」を形成する要因としての血縁、地縁、社縁など、多岐にわたるトピックが詳細に探求されている。

最終章では、民俗学の目的と方法について、私たち自身が研究の「資料」となるという独自の視点から詳述される。各章の間に挟まれるコラムでは、さまざまな視点やトピックが提供され、読者に新たな洞察や知識を提供している。

著者、菊地暁は、1969年北海道生まれで、京都大学文学部を卒業後、大阪大学大学院文学研究科で博士後期課程を修了し、博士(文学)の学位を取得。現在は京都大学人文科学研究所の助教として活動しており、民俗学(Folklore)を専攻とする。彼はこれまでに、柳田国男や今和次郎など、民俗学の大家たちに関する著作を数多く手掛けており、その中でも特に『柳田国男と民俗学の近代』や『今和次郎「日本の民家」再訪』は注目されている。

『民俗学入門』は、この学問の基本的な側面や魅力を、明快かつ詳細に学べる一冊として、民俗学に興味を持つすべての人々にとって必読の書と言えるだろう。

民俗学 フォークロア編: 過去と向き合い、表現する

『民俗学 フォークロア編: 過去と向き合い、表現する』は、加藤幸治氏によって執筆され、武蔵野美術大学出版局から2022年に出版されました。この書籍は、「フォークロア(Folklore)」という言葉を中心に、私たちの文化や伝統についての考察を深める内容となっています。

フォークロアは、フォーク(Folk:人々やある集団)とロア(Lore:伝統的な知識や物語)の組み合わせからなる造語です。一見、古風でレトロな印象のあるこの言葉ですが、加藤氏はこの書籍を通じて、伝統を単に重んじるのではなく、過去の知識や物語から意味を見出し、現代の生活を豊かにする方法を探る視点を持っています。フォークロアは、一方でロマンチックで懐かしい気持ちを呼び起こすものであり、一方で少し怖さや魅力を持つものでもあります。このようなフォークロアの持つ多面性を、自らの表現の中に取り入れる方法を模索するというのが、本書の主旨です。

内容としては、フォークロアが持つ三つの特性、すなわち「ノスタルジア(Nostalgia:郷愁)」、「ファンタジー(Fantasy:幻想)」、そして「フォーク・カルチャー(Folk Culture:民俗文化)」についての考察が行われています。また、日常の中にどのようにフォークロアが存在しているのか、身体観や日本らしい意匠、生活を取り巻く道具や物、さらには文学や言葉など、さまざまな角度からフォークロアを捉え直す試みがなされています。

そして、最後には現代や未来におけるフォークロアの役割や存在意義についての考察が行われています。フォークロアは物や場所に宿り、私たち一人一人にとっての問いや表現としてどのように存在しているのか、その答えを探るヒントが綴られています。

著者の加藤幸治氏は、1973年静岡県浜松市生まれで、現在は武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程の教授として活動しています。民俗学や博物館学を専門とし、多くの著作を通じてその独自の視点や考察を発表しています。

本書は、伝統や文化を深く理解し、それを現代の生活の中でどのように生かすことができるのかを学ぶための貴重な一冊となっています。過去と向き合い、その中から新しい発見や表現をするためのヒントや知識が詰まっているので、文化や伝統に興味のある方にはぜひ手に取ってもらいたい一冊です。

民俗学の思考法:〈いま・ここ〉の日常と文化を捉える

編集:岩本 通弥, 編集:門田 岳久, 編集:及川 祥平, 編集:田村 和彦, 編集:川松 あかり
¥1,980 (2023/10/21 12:54時点 | Amazon調べ)

『民俗学の思考法:〈いま・ここ〉の日常と文化を捉える』は、慶應義塾大学出版会より2021年に刊行された著作で、岩本通弥、門田岳久、及川祥平、田村和彦、川松あかりといった学者たちが編集を担当しています。この本は、現代の文化や日常を捉えるための民俗学の基本的な考え方を、初学者にもわかりやすく解説するという目的を持ちながら、現代社会の多様な現象やトピックスを取り扱っています。

この書籍は「生きる技法」という視点から、現代の人々の生活や文化をミクロな視点で捉えると同時に、それと関連する同時代の社会的背景や世相との関連性を深堀りしています。驚くべきことに、本書はSNSや科学技術、さらにはグローバリゼーションといった現代的なテーマまで取り扱っているのです。これは、民俗学が歴史的・伝統的なものだけでなく、現代の日常生活における多岐にわたる事象にも関与していることを示しています。

目次を見ると、書籍は大きく二つの部分から成り立っています。第I部では、「いま・ここ」を捉える様々な思考法についての章立てがあり、日常とヴァナキュラー(vernacular)、歴史と世相、芸能とパフォーマンス、ソーシャルメディア、科学技術、信仰、文化遺産、防災、地域コミュニティ、親族関係、グローバリゼーション、生活と衣食住、人生と儀礼といった幅広いトピックスに焦点を当てています。

第II部は「現代民俗学を読み解くキーワード36」と題されており、民俗学における基本的な概念やキーワード、例えば「民 俗」、「文化の伝達」、「日 常」、「ヴァナキュラー」、「伝統とイデオロギー」といった項目を、詳しく解説しています。

著者には多くの研究者や専門家が名を連ねており、それぞれが自分の専門分野や研究テーマに関連する章やキーワードを執筆しています。彼らの多様な視点と深い知識が、この書籍を非常に豊かで読み応えのあるものとしています。

まとめると、『民俗学の思考法:〈いま・ここ〉の日常と文化を捉える』は、現代社会を取り巻く様々な文化や現象を、民俗学の視点から深く考察するためのガイドブックとも言えるでしょう。初学者から専門家まで、幅広い読者にとって有益な情報と知識が詰まっています。

民俗学がわかる事典 (角川ソフィア文庫)

編集:新谷 尚紀, 著:新谷 尚紀
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『民俗学がわかる事典 (角川ソフィア文庫)』は、新谷尚紀氏(Shintani Takanori)によって編集・執筆された一冊の本であり、2022年8月24日にKADOKAWAから出版されました。この本は、民俗学の魅力を身近な疑問や基本的な用語から深遠なテーマまで、幅広く解説しています。

民俗学(Folklore)は、私たちの日常生活に根付いた習慣や伝承、信仰などを研究する学問です。たとえば、家の敷居や畳の縁を踏んではいけないとされる理由、氏神(Ujigami)や道祖神(Doso-shin)の役割、学校の怪談が流行る背景など、身の回りの疑問から、ハレ(Hare: 祭りや特別な日)、ケ(Ke: 日常)やケガレ(Kegare: 不浄や穢れ)といった民俗学的な用語の意味まで、多岐にわたるテーマがこの事典で取り上げられています。

本書の内容は、日常生活に関する疑問、基本知識、神仏と信仰、人生と儀礼、年中行事、経済、社会構造、家庭生活、芸能や言語、そして沖縄の独特な文化や、現代の変化と国際化の中での民俗学の位置付けについて、と幅広く網羅しています。さらに、民俗学や民俗学者の歴史と現状についても詳しく解説しています。

著者の新谷尚紀氏は、1948年広島生まれの社会学博士で、数多くの学際的な実績を持つ民俗学者として知られています。早稲田大学大学院での研究を経て、国立歴史民俗博物館教授や国立総合研究大学院大学教授、國學院大學文学部教授など、数々の要職を歴任してきました。現在は、國學院大學大学院の客員教授として、また、国立総合研究大学院大学・国立歴史民俗博物館の名誉教授として活躍しています。

この『民俗学がわかる事典』は、柳田國男が築き上げた日本生まれの学問である民俗学の魅力を、広く一般の人々へ伝えるための指南書として、多くの読者にとって非常に価値ある一冊となるでしょう。

鬼と異形の民俗学―漂泊する異類異形の正体

著:                                      , 監修:飯倉義之
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「鬼」(Oni)という存在は、日本の伝承や物語において長い間、人々の心をとらえてきました。それが何故なのか、そして鬼とは一体何なのかを探求するため、飯倉義之監修のもとで本書は執筆されました。本書の中で、読者は鬼の存在を民俗学的な視点から深く探求することができます。

始めに、本書は「鬼」の正体やその背後にある意味を探るため、日本の古典や伝説を引き合いに出しています。第1章では、鬼や異形の存在が古典や伝説にどのように現れたのか、その系譜を探ります。続いて第2章では、日本の闇の中で蠢く「異形のもの」たち、すなわち異界からの訪問者に焦点を当てています。第3章では、怪異と対峙した「鬼殺隊」の原像や、実際の歴史上の存在、呪術者や異能者たちの群像を紹介します。そして、第4章では、鬼と出会える場所や、鬼との関わりを持つパワースポットについて解説しています。

『鬼滅の刃』という近年のヒット作も取り上げられており、その物語構造やキャラクター造形が、実は非常にシンプルでありながら、日本人の心をつかむ要素を持っていることが指摘されています。これは、鬼退治を目的とする主人公たちの冒険が、昔話「桃太郎」などの「鬼退治の物語」と連なるものであることからです。

鬼という存在は、物語の中で不安や怒りを代弁し、最終的に退治されることで人々に安心感を提供する存在として描かれています。本書は、そうした鬼や怨霊、目に見えない不安といった存在との闘いを通じて、日本の民俗文化の一端を読者に提示します。

著者について、飯倉義之は1975年、千葉県生まれ。國學院大學大学院を修了後、多くの役職を経て、現在は國學院大學文学部の准教授として活動しています。専門分野は口承文芸学や現代民俗論で、特に妖怪や怪異に関する知識が深いことで知られています。また、本文の執筆は古川順弘が担当しており、彼は宗教や歴史分野を専門とする著名な文筆家・編集者です。

この書籍は、日本の鬼や異形の存在に関する深い洞察と、その背後にある民俗学的な意味を学ぶことができる一冊となっています。

民俗学と日常の交差点:5冊の書籍を通して見る文化の奥深さ

Folklore studies is a deep exploration of everyday traditions and culture that illuminates our roots and the meaning of our lives.
民俗学は、日常の伝統や文化を深く探求し、私たちのルーツや生活の意味を照らし出してくれる学問です。

民俗学(Folklore Studies)は、我々の文化や日常に潜む伝承や習慣、信仰などを学ぶ学問である。この分野は、日本文化の深部に触れる手がかりを提供してくれるため、多くの人々にとって興味深いものとなっている。今回紹介した5冊の書籍は、それぞれ異なる角度から民俗学の魅力を解き明かしている。

『民俗学入門 (岩波新書)』は、その名の通り、民俗学の基本的な概念や考え方を紹介するエントリーブックである。この書籍を読むことで、民俗学のフィールドがどのようなものであるのか、初歩的な理解を得ることができる。

次に、『民俗学 フォークロア編: 過去と向き合い、表現する』は、民俗学の中でもフォークロア(Folklore)に焦点を当てた内容となっており、伝承される物語や伝説、神話などの背景やその表現方法について掘り下げている。この書籍は、文化の中に秘められた物語の価値や意味を理解する上で役立つ。

『民俗学の思考法:〈いま・ここ〉の日常と文化を捉える』は、民俗学を実際の日常生活にどのように適用するかに焦点を当てている。民俗学が現代の生活や文化にどのように関わっているのか、具体的な例を通して学ぶことができる。

一方、『民俗学がわかる事典 (角川ソフィア文庫)』は、民俗学に関連する様々な用語や概念、事例を網羅的に紹介している事典形式の書籍である。この書籍を手元に置いておくことで、民俗学に関する疑問や不明点をすぐに解消できる参考資料となるだろう。

最後に、『鬼と異形の民俗学―漂泊する異類異形の正体』は、特定のテーマ、すなわち「鬼」という存在を中心に、日本の民俗文化や信仰、伝説を詳細に探求している。特に、『鬼滅の刃』という現代のポピュラー文化との関連性を取り上げることで、古典的な伝承が現代文化にどのように影響を与えているのかを考察している点が興味深い。

これらの書籍を通じて、民俗学は単なる学問としてだけでなく、我々の日常生活や文化、社会に密接に関わるものであることが理解できる。これらの書籍を手に取ることで、身の回りの事象や文化、伝承に新たな視点で向き合うことができるだろう。