運慶(Unkei)と快慶(Kaikei)、この二人の名は鎌倉時代(Kamakura period)の仏像彫刻に革命をもたらしたとして、今なお輝きを放ち続けています。彼らの手がけた仏像は、迫力ある生き生きとした表情と繊細な造形で知られ、時を越えた美の追求を象徴しています。このブログでは、そんな彼らの作品と、その功績を再評価し継承するための五冊の書籍を紹介していきます。光と影を操り、神々しい存在感を放つ快慶の仏像の数々。力強く、時に温かみをも感じさせる運慶の仏像。これらの書籍は、仏像の魅力に新たな光を当て、二人の仏師がどのようにしてその時代の枠を超え、現代に至るまで人々の心を捉え続けているのかを探ります。写真集から研究書まで、多様な角度から彼らの芸術性を浮き彫りにするこれらの書籍を通じて、運慶と快慶の不朽の作品世界へと皆様をご案内します。
運慶 六田知弘写真集
『運慶 六田知弘写真集』は、日本の写真家である六田知弘(Tomohiro Muda)による、運慶(Unkei)とその工房の作品に焦点を当てた写真集です。運慶は、鎌倉時代(Kamakura period)を代表する仏師(Buddhist sculptor)であり、彫刻界に革命をもたらした人物です。六田知弘は、自然と人間の根源的なつながりを追求する視点から、仏像だけでなく、石や水、古い建物の壁、遺跡など、さまざまな題材を撮影し続けています。
本書には、運慶だけでなく、彼の父である康慶(Koukei)や息子の康弁(Kouben)の作品も含まれており、合計97点の作品が収録されています。これらの写真はモノクロームのトリプルトーン(Monochrome Triple Tone)技術を使用し、墨色(ink black)の深みと、覚醒するかのような色彩による光の表現が特徴です。表紙や本文中の部分拡大により、仏像の表情や動きの緊張感が伝わる設計になっており、運慶仏の持つエネルギーと「気」が感じられるようになっています。六田は、運慶の作品が放つ、目に見えない「気」を視覚化しようと試み、その過程で新たな運慶の世界を提示しています。
六田知弘は早稲田大学(Waseda University)を卒業後、ネパールのシェルパ(Sherpa)の村での生活を撮影し、その後も自然や人間とのつながりをテーマにした多くの写真集を出版しています。『運慶 六田知弘写真集』は、その集大成とも言える作品であり、運慶の重厚な作品群をスタイリッシュかつ新しい視点で捉え直し、読者に新たな感覚で仏像を鑑賞する機会を提供しています。この写真集は、仏像を通して運慶という人物を深く知るとともに、彫刻と写真という異なるアートフォームがどのように対話し合うかを体感することができる一冊です。
快慶作品集
快慶(Kaikei)は、鎌倉時代(Kamakura period)を生きた彫刻家(sculptor)であり、日本の仏像彫刻(Buddhist statuary)における表現の革新者として知られています。彼は特に、光と影を駆使して、神々しくも精緻な仏像を創り出したことで評価されています。『快慶作品集』は、このような快慶の仏像を、写真家・佐々木香輔(Sasaki Kyosuke)の視点を通して網羅的に捉えたものです。佐々木は、日本大学芸術学部(Nihon University College of Art)を卒業後、著名な写真家小川光三(Ogawa Kozo)に師事し、その後、仏像写真や美術出版を専門とする飛鳥園(Asuka-en Corporation)で働きました。また、奈良国立博物館(Nara National Museum)にて、写真技師として多くの図録や研究書の図版撮影に携わった経験も持ちます。彼は仏像の撮影だけでなく、社会問題にも焦点を当てた『Street View』や『Space』といった作品で、現代社会との関わりを探る活動も行っています。この作品集には、国内の主要な快慶仏が収められており、写真を通して快慶の仏像が持つ神秘性と技術的精緻さを楽しむことができます。
仏師快慶の研究
『仏師快慶の研究』は、奈良国立博物館(Nara National Museum)によって編集され、思文閣出版(Shibunkaku Publishing)から2023年3月29日に発売された快慶(Kaikei)の作品に関する総合的な研究書です。快慶は運慶(Unkei)と並んで、鎌倉時代の仏像彫刻(Buddhist statuary)の新しい表現形式を築き上げた著名な仏師です。
この本は、2017年に奈良国立博物館で開催された特別展「快慶―日本人を魅了した仏のかたち―」を基にしています。この展覧会では、快慶作品の約80%が展示され、快慶に関するこれまでの知見を集約した画期的な内容となっていました。展示された作品群は、大判カラー写真とともに本書に収録されており、快慶の全作品を網羅する研究の決定版とも言えます。
目次には、在銘作品(signed works)、重要文化財(Important Cultural Properties)、国宝(National Treasures)など、快慶によるまたは快慶工房によると考えられる重要な仏像がリストアップされています。例えば、ボストン美術館(Boston Museum of Art)やメトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)など、国内外の美術館に所蔵されている作品が含まれています。
また、資料セクションでは、像底(base of statues)や銘文(inscriptions)の集成、納入品(deposited items)のX線CTスキャン画像、X線透過画像(X-ray images)、そして「南無阿弥陀仏作善集」の影印・翻刻(facsimile and transcription)などが掲載され、快慶の作品が持つ技術的な側面と精神性の深さを探ることができます。
論文セクションでは、快慶の生涯、彼の仏像における「如法」(as per the law)の表現、生身信仰(embodied faith)との関係、金属製荘厳具(metal adornments)に関する研究などが含まれています。これらの論文は、快慶と彼の時代の宗教的及び社会的文脈を理解する上で重要なものです。
作品解説、年表、主要参考文献セクションを通じて、読者は快慶の仏像が持つ歴史的重要性や、彼の技術的な卓越性についての包括的な理解を深めることができます。『仏師快慶の研究』は、仏像研究に関心のある学者、学生、歴史愛好家、そして美術史に興味を持つ一般読者にとって、貴重な資料となることでしょう。
ペンブックス32 運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた
『ペンブックス32 運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた』は、CCCメディアハウス(CCC Media House)から2021年7月13日に発売された、日本彫刻史における二人の巨匠、運慶(Unkei)と快慶(Kaikei)に焦点を当てた書籍です。この書籍は、仏像(Buddhist statues)に新たな命を吹き込んだ二人の仏師(Buddhist sculptors)の人生と作品を探求しています。
書籍は、運慶と快慶が生きた動乱の時代(Times of Turmoil)を背景に、彼らの仏像に対するスタイルと表現の変革を紐解きます。慶派(Kei school)と呼ばれる彼らの流派が、仏像のスタイルにどのような変化をもたらしたかを探り、仏師としての三世代(Three Generations of Sculptors)の比較を通じて、それぞれの表現志向の違いを明らかにします。
特に、東大寺(Todai-ji)南大門の金剛力士像(Kongorikishi statues)などの傑作の解剖を通じて、彼らの技術的な力量と創造的な企みを掘り下げています。これらの作品は、運慶と快慶がいかにして日本美術に大きな転機をもたらしたかを示しています。
運慶篇では、彼のデビューから最晩年に至るまでの仕事を見て、その無二の天才ぶりを探ります。彼の作風がどのように発展し、どのような作品を生み出したかが詳細に説明されています。一方、快慶篇では、一弟子から慶派のスターへと成長した彼の人生と、彼が捧げた仏像に光を当てます。
また、仏像の魅力について深く掘り下げ、飛鳥(Asuka)から鎌倉時代(Kamakura period)にかけての名作を通じて、日本の仏像史を学ぶ機会を提供しています。基本的な仏像の種類や制作方法を学び、仏像のディテールに注目することで、仏像をより深く味わう方法を提案しています。
さらに、俳優の井浦新(Iura Arata)と作家のいとうせいこう(Ito Seiko)による対談や、運慶・快慶の仏像MAPなど、多様なコンテンツが読者の興味を引きつけます。この書籍は、美術愛好家はもとより、歴史や文化に興味がある一般の読者にも、運慶と快慶の仏像がいかに時代を超えて人々を魅了し続けるかを理解するための貴重な資料です。
大仏師運慶 工房と発願主そして「写実」とは (講談社選書メチエ)
『大仏師運慶 工房と発願主そして「写実」とは (講談社選書メチエ)』は、講談社から2020年9月11日に出版された、塩澤寛樹(Shiozawa Hiroki)著の書籍です。この作品は、鎌倉時代の日本において最も影響力のあった仏師、運慶(Unkei)の実像に迫るものです。運慶は定朝(Jōchō)を祖とする正系仏所三派(Authentic Buddhist Sculptor Schools)の一つに連なり、その工房主宰者としての実力や、様々な造像(statue-making)プロジェクトへの関与を解き明かしています。
本書は、運慶がどのようにして朝廷(Imperial Court)、幕府(Shogunate)という二元的権力構造の時代において、院(Retired Emperor)、天皇(Emperor)、将軍(Shogun)、御家人(Vassals)などのパトロンから造像の依頼を受け、どのようにこれらを遂行したかを探ります。特に東大寺(Tōdai-ji)、興福寺(Kōfuku-ji)、円成寺(Enjō-ji)、願成就院(Ganjōju-in)などの復興や造像プロジェクトにおける彼の役割と、彼が工房主宰者として発揮した制作力に焦点を当てます。
塩澤寛樹は、慶應義塾大学(Keio University)で美学美術史学を専攻し、現在は群馬県立女子大学の教授として、博士(Ph.D. in Aesthetics, Keio University)として日本美術史、特に鎌倉時代の仏教彫刻史や肖像彫刻史の研究に従事しています。運慶の仏像が「写実」(Realism)とされる理由やその美術的特徴についても論じており、「天才」と称される彼の仏像がどのようにしてその名声を得たのかを考察しています。
本書は、運慶の生涯と作品、工房運営の実態、そして彼がどのようにして後世に「霊験仏師」(Miraculous Buddhist Sculptor)や「天才」として知られるようになったのかを明らかにすることで、鎌倉時代の仏教美術に深い理解を提供します。彫刻史や美術史、鎌倉時代の文化に関心がある読者にとって、この書籍は貴重な知見を与える一冊となるでしょう。
まとめ
鎌倉時代の仏師、運慶(Unkei)と快慶(Kaikei)は、日本の仏像彫刻(Buddhist statuary)に革命をもたらした二人の巨匠として、今日までその名を馳せています。彼らの生涯と作品を捉えた一連の書籍は、彼らの輝かしい遺産と美術史上の重要性を照らし出しています。
『運慶 六田知弘写真集』では、運慶の作品が持つ迫力と精緻さを、写真家六田知弘(Tomohiro Muda)のレンズを通じて探求しています。一方、『快慶作品集』は、快慶の細部にわたる緻密な仕事と彼の作品の華やかさに焦点を当てています。『仏師快慶の研究』は、奈良国立博物館(Nara National Museum)による快慶の作品に関する総合的な研究として、彼の作品の背後にある技術的な洞察と精神性を詳細に検証しています。
『ペンブックス32 運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた』は、彼らの仏像に対するアプローチと、それが如何に日本の仏像のスタイルを変えたかを論じ、運慶と快慶の競演となった東大寺南大門の金剛力士像(Kongorikishi statues)を含む傑作の分析を含んでいます。最後に、『大仏師運慶 工房と発願主そして「写実」とは (講談社選書メチエ)』は、運慶が朝廷(Imperial Court)や幕府(Shogunate)といった当時の権力者たちからどのように支持を受け、工房主宰者としての彼の制作力を展開したかを探ります。
これらの書籍は、運慶と快慶がいかにして彫刻の歴史における新しい章を開いたか、そして彼らの作品がいかに多様で影響力のあるものであるかを示しています。読者はこれらの書籍を通じて、彫刻というメディアが持つ表現力と、仏像が時代を超えて伝える霊性と情緒を深く理解することができるでしょう。芸術愛好家、歴史家、学者、そして一般の読者にとって、これらの書籍は、日本の仏像彫刻とその二人の巨匠の遺産を知るための重要なリソースです。