考古学は私たちに、文字に記されていない過去の物語を語りかけてくれる魅力的な分野です。それは、古代の人々の生活の様子、文化、技術、さらには彼らの価値観や思考までを、物理的な痕跡から読み解くアートとも言えるでしょう。歴史学との関係、その研究法の進化、そして考古学がどのようにして時代の区分や年代を特定しているのか。このブログでは、考古学の奥深い世界を探求していきます。歴史の中で失われたかと思われた情報を、考古学がどのように蘇らせるのか。その興味深いプロセスと発見を共に探る旅に、ぜひご一緒ください。

1. 考古学と歴史学の関連性

考古学と歴史学は、それぞれ独自の方法と対象を持ちつつ、過去の事象や文化を理解するために互いに補完しあっています。特に、文献史学という分野の歴史学は、文字による記録を主要な史料として扱います。

文献史学の研究法は、ギリシャのヘロドトス以来、長い歴史を有しています。対象として取り扱う史料は、文字による記録です。これには紙本文書(paper documents)、パピルス文書(papyrus documents)、粘土板文書(clay tablet documents)、皮革文書(leather documents)、甲骨文(oracle bones)、帛書(silk writings)、竹簡(bamboo slips)、木簡(wooden slips)、碑文(steles)、金石文(inscriptions on metal objects and stones)などがあります。これらの史料の利点は、記録されている限り「いつ」「どこで」「だれが」「何をしたか」が具体的にわかる点です。

しかしながら、文献史学の研究にはいくつかの限界が存在します。文字で書かれた記録のすべてが現代に残っているわけではありません。さらに、記録された内容が必ずしも真実であるとは限りません。そのため、その記録の内容が正確であるかどうかを確認するために、同じ時代や前後の時代の記録との比較検討(資料批判、document criticism)が必要です。また、文字が存在する前の時代や、未解読の文字は、文献史学の対象外となります。

考古学は、文献史学のこれらの限界を補完するポテンシャルを持っています。特に、文字以前の時代や物質文化の変遷、そして未解読の文字に関する情報を提供することができるのです。

考古学と文献史学は互いの方法と情報を利用することで、より広く深い過去の理解を可能とするのです。

2. 考古学の研究法の進化

考古学(Archaeology)は、文献史学とは異なり、人間活動の痕跡としての遺跡や遺物から歴史を復元する学問です。Archae(古代の)とlogy(学問)を組み合わせて考古学という名前が与えられています。この学問は、数世紀にわたって研究法の変化と進化を経てきました。

考古学の始まりは、18世紀のドイツで、古典考古学(Classical Archaeology)としてヴィンケルマンによって確立されました。古典考古学は、ギリシャやローマの美術品を主に対象とし、その美術品の様式の変化を研究することで古代文化を理解しようとしました。

しかし、20世紀前半に入ると、イギリスのチャイルドが現代考古学(Modern Archaeology)を確立しました。これは、古典考古学と、より古い時代、特に文字のない先史時代を対象とする先史学を統合したものです。この研究法の確立により、考古学はさらに広範な時代や地域の研究が可能となりました。

そして、20世紀後半になると、アメリカのビンフォードやディーツが新考古学(New Archaeology)を提唱しました。この新しいアプローチでは、現代考古学に人類学や民族学の手法や理論を取り入れることで、人間の文化や社会の進化をより深く理解することを目指しました。

考古学の研究法は時代とともに大きく変わってきました。古典考古学から現代考古学、そして新考古学へと、考古学はさまざまな学問的手法や視点を取り入れて進化してきました。これにより、遺跡や遺物から得られる情報をより多角的に、そして深く解析することが可能となっています。

3. 考古学の研究対象と利点

考古学の主要な研究対象(資料)は、遺跡や遺物です。遺跡・遺構には、住居、宮殿、神殿、集落、都市、土器製作の場所(窯址)、石器製作の場所、鋳造遺跡、水田址、足跡、墳墓、そして記念物(Monument)などが含まれます。これらの遺跡は、古代の人々の生活や文化を直接的に示すものであり、歴史を具体的に理解するための貴重な手がかりとなります。

遺物には、人工遺物と自然遺物があります。人工遺物には、石器、土器、骨角器、金属器、木器、漆器、玉器、織物などがあり、これらは人々の手によって加工・製作された物品です。自然遺物には、植物遺存体(花粉、葉、珪藻の骨)や動物遺存体(昆虫、動物の骨、貝殻、魚骨、鱗、鳥骨、寄生虫の卵、糞石)があります。これらの遺物は、特定の時代や場所の環境や生態系を示すものとして、重要な情報を提供します。また、正倉院に残るような伝世品も考古学の研究対象とされます。

考古学の利点としては、文字以前の時代にも適用できることが挙げられます。これは、歴史学が文字資料に依存するのとは対照的です。また、遺跡や遺物は、個人や組織の意図的な記録とは異なり、意図的な虚偽が含まれにくいとされています。これにより、客観的な事実や情報を提供する可能性が高まります。

しかし、考古学にもいくつかの限界が存在します。遺跡や遺物のすべてが残るわけではなく、消滅するものも多いです。特に日本のような酸性土壌では、有機物は急速に腐敗することが知られています。そのため、ある時代や場所に何が存在したかを証明することは可能でも、何が存在しなかったかを証明することは非常に困難です。さらに、発掘者が予想していないものは、たとえそれが実際に存在したとしても、容易に見落とされる可能性があります。

4. 時代の区分

歴史を学ぶ上で、さまざまな時代を区分する方法が存在します。この時代の区分は、文献記録の存在やその量に基づいて行われます。

まず、History(歴史時代)とは、文献記録が豊富に存在する時代を指します。この時期には、文献史学と考古学の両方の手法が用いられます。加えて、歴史地理学もこの時代の研究に重要な役割を果たします。文献史学の研究は文字による記録を中心に、考古学の研究は遺跡や遺物を中心に行われ、これらを組み合わせることで歴史の全体像を描き出します。

次に、Proto History(原史時代)とは、文献記録は存在するものの、それが少ない時代を指します。この時代も、文献史学と考古学の手法が併用されることが一般的です。歴史地理学もこちらの時代において重要な役割を持ちます。文献記録の欠如を考古学の手法で補完することで、より詳細で豊かな歴史の復元が試みられます。

最後に、Pre History(先史時代)とは、文献記録が全く存在しない時代を指します。この時代においては、考古学の手法が主として用いられます。先史地理学もこの時代の研究に大きく貢献します。文献による情報がないため、遺跡や遺物からの情報が非常に価値を持ち、それに基づいて古代の生活や文化を解明する努力が行われています。

5. 年代の決定方法

考古学において、遺物や遺跡の年代を正確に特定することは極めて重要です。年代を特定する手法は大きく分けて、「相対年代」と「絶対年代」の二つのカテゴリーに分けられます。

「相対年代」は、それぞれの遺物や遺跡が相対的に古いか新しいかを示すものです。

  1. 型式学的方法:これは、美術史の様式論と進化論を組み合わせて生まれた方法です。例えば、ビーナスの顔や衣装の様な特定の遺物の型式の変化に序列を付けることで、それらが時代的にどのように進化してきたかを知ることができます。
  2. 層位学的方法:地質学に基づくこの方法は、ある遺物が地層のどの部分に存在するかを基にして年代を特定します。具体的には、より下位の層にあるものは、より上位の層にあるものよりも古いとされます。

次に「絶対年代」は、具体的な年数や西暦などの絶対的な時期を示すものです。この手法は、自然科学や物理科学の応用によって実現されています。

  1. 縞粘土法:氷河が毎年運ぶ粘土の層を基にして年代を特定します。この方法は花粉分析とも連動して使われることが多いです。
  2. 年輪年代法:太陽の黒点の異常や気候変動による年輪の成長差を基に年代を特定します。
  3. 放射性炭素年代法:炭素同位体C14が5730±30年でC12に半減する特性を利用して、遺物の年代を特定します。例として、10000±200B.P.のような結果が得られます。
  4. K-Ar法:カリウムがアルゴンとカルシウムに変わる変化の比率を用いて、数十万年から数百万年のスケールで年代を特定します。
  5. 熱残留磁器法:地磁気の方向の変化と、焼物に残された地磁気の方向の異同を比較して年代を特定します。
  6. フィッション・トラック法:ウラニウム238の原子核分裂を応用し、土器や黒曜石の年代を特定します。
  7. 火山灰法:噴火年代が既に判明している火山灰層が、特定の遺物や遺跡の上や下に位置するかを調べることで、その遺物や遺跡の年代を特定します。この方法は、火山灰中のガラスの分析も併せて行われます。

これらの手法を組み合わせることで、考古学的発見の正確な年代を決定することが可能となります。

まとめ

Not all ruins and artifacts remain. Many disappear.
遺跡や遺物のすべてが残るとは限らない。消滅するものも多い。

本ブログでは、考古学と歴史学の関連性やその中でのアプローチの違い、考古学の研究法の進化、研究対象とその利点、さらには時代の区分や年代を決定する方法について深く探求しました。

考古学と歴史学は密接に関連しているものの、そのアプローチは大きく異なります。歴史学の一部としての考古学は、文献史学とは異なり、人間活動の物理的な痕跡を通じて歴史を復元することに焦点を当てています。特に、文献史学が主に文字による記録(史料)を研究するのに対し、考古学は遺跡や遺物からの情報を元に歴史を再現します。

また、考古学の研究法は時代と共に進化してきました。18世紀のヴィンケルマンの古典考古学から、20世紀には現代考古学やNew Archaeologyが提唱されるなど、多岐にわたる変遷が見られます。特に、新しい考古学的アプローチは人類学や民族学の要素を取り入れ、より広範な研究が行われるようになりました。

考古学の最大の利点として、文字記録が存在しない時代にもその手法が適用できる点が挙げられます。また、遺物や遺跡は、個人や組織の意図が反映されにくいため、より客観的な情報源としての価値があります。

さらに、考古学では歴史時代、原史時代、先史時代という3つの時代区分に基づき研究が行われます。このような時代区分を通じて、遺物や遺跡のコンテキストや背景をより深く理解することが可能となります。

最後に、考古学における年代の決定方法についても触れました。相対的な年代や絶対的な年代を特定するための様々な科学的手法が紹介され、それぞれの手法がどのような情報を提供するのか、その重要性が強調されました。

本ブログは考古学の奥深さとその歴史学との関連性を明確にし、読者に考古学の多面的な側面と魅力を伝える内容となっています。