自然災害は、世界中で頻発しており、その影響は広範にわたります。日本は、地震、津波、火山噴火など、多くの自然災害に見舞われる国です。これらの災害は、人々の生活に深刻な影響を与え、歴史に多くの痕跡を残しています。しかし、一方で、これらの災害の痕跡は、過去の人々の生活や復興の過程、歴史についての貴重な情報源となり得るものです。考古学は、過去の人間社会や文化を、物質的な遺跡や遺物から読み解く学問です。今回のブログ記事では、自然災害と考古学という、一見無関係に思える二つのテーマが、どのように結びついているのか、そして、その結びつきが現代社会にどのような示唆をもたらすのかについて、いくつかの重要な文献を紹介しながら考察していきます。

季刊考古学154号 特集:津波と考古学

編集:金子 浩之
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『季刊考古学154号 特集:津波と考古学』は、津波災害とその遺跡に焦点を当てた非常に重要な文献です。この号は、雄山閣出版から2021年1月27日に発売されました。本特集では、津波の痕跡と考古学、津波被害と遺跡の立地、津波が残したもの、最近の発掘から、といったセクションに分かれ、それぞれのトピックについて詳細に解説されています。

まず、”津波の痕跡と考古学” セクションでは、藤原治氏による「遺跡での津波堆積物の認定と活用」、平川一臣氏の「私の津波堆積物発見・研究史」、宍倉正展氏の「隆起痕跡が示す過去の地震・津波」についての論文が掲載されています。

次に、”津波被害と遺跡の立地” セクションでは、相原淳一氏による「陸奥国における869年貞観津波による被災と復旧」、村岸純氏の「江戸湾の津波・高潮災害」、片桐昭彦氏の「史料にみる中世の鎌倉の津波災害」、金子浩之氏の「関東地震と津波災害」、大谷宏治氏の「東海地方沿岸部の遺跡と津波」、後藤建一氏の「浜名湖南部の津波被害」、瀬谷今日子氏の「紀伊・熊野の津波災害」、岡本桂典氏の「土佐湾岸の津波痕跡と隆起沈降」、豊田徹士氏の「豊後水道沿岸に津波痕跡について」という多くの論文が掲載されています。

また、”津波が残したもの” セクションでは、金子浩之氏の「漂着神仏・素戔嗚神話と津波災害」、増山順一郎氏の「伊豆下田の津波被害と浪除堤」、松井一明氏の「防災遺跡、二つの命山と浅羽大囲堤―大野命山、中新田命山、浅羽大囲堤の発掘調査―」、寒川旭氏の「遺跡の地震痕跡と津波堆積物」という論文が取り上げられています。

“最近の発掘から” セクションでは、木庭真由子氏の「まぼろしの遺跡を掘る 熊本県上益城郡益城町宮園A遺跡」、田辺芳昭氏の「明らかになりつつある上野国分尼寺の伽藍 群馬県高崎市上野国分尼寺跡」という論文が紹介されています。

さらに、この号にはリレー連載・考古学の旬、リレー連載・私の考古学史、現状レポート、書評/論文展望/報告書・会誌新刊一覧/考古学界ニュースといったコーナーも含まれています。

特に注目すべきは、「津波の痕跡と考古学」セクションで、藤原治氏が遺跡での津波堆積物の認定と活用について解説している点です。津波堆積物は、過去の津波の存在を示す重要な痕跡です。また、平川一臣氏の「私の津波堆積物発見・研究史」では、著者自身の津波堆積物の発見と研究に関する経験が紹介されています。

また、「津波被害と遺跡の立地」セクションでは、多くの地域での津波被害とその後の復旧について解説されています。特に、相原淳一氏による869年の貞観津波による被災と復旧についての解説は、過去の災害から学べる重要な知見が得られるでしょう。

総じて、『季刊考古学154号 特集:津波と考古学』は、過去の津波災害とそれに関連する遺跡についての研究を進める上で、非常に重要な情報を提供している一冊です。考古学者はもちろん、災害学、地震学、地質学など、関連する多くの分野の専門家にとっても、参考になる内容が多く含まれています。

季刊考古学146号 特集:火山災害考古学の展開

編集:桒畑 光博
¥2,640 (2023/09/01 13:34時点 | Amazon調べ)

『季刊考古学146号 特集:火山災害考古学の展開』は、2019年に出版された雄山閣からの重要な刊行物です。この特集号は、日本全国の旧石器時代から近世に至るまでの火山災害遺跡の発掘調査を取りまとめ、火山災害考古学の研究成果を初めて全国的に集約しています。

この特集は、桒畑光博氏による「火山災害考古学序説」と、能登健氏による「災害考古学の方法と展開」という序論で始まります。これらの章では、災害考古学の全体的な枠組みと、その展開について議論されています。

以下のセクションでは、異なる時代の人々が火山災害にどのように対応したかを、具体的な事例をもとに検討しています。

  1. 狩猟採集民の対応: これには、姶良カルデラの大噴火、霧島小林軽石、三瓶山噴火災害、鬼界アカホヤ噴火災害、東南部九州の局地的噴火災害、十和田中掫テフラ噴火、富士山噴火、伊豆・箱根・富士山の縄文時代後・晩期の噴火災害などの事例が取り上げられています。
  2. 首長制社会・律令制社会の対応: 古墳時代の榛名山噴火、富士山の古墳時代・平安時代の噴火災害、平安時代の浅間山噴火災害と社会の対応について検討されています。
  3. 辺境地域の対応: 開聞岳火山災害と対応の実態、平安時代の十和田火山噴火災害と地域社会の対応について取り上げられています。
  4. 中~近世社会の対応: 中世の桜島火山噴火による田畠の災害と復旧、富士山宝永大噴火の被害と復興、浅間山天明三年(1783)噴火・社会への影響と復興について考察されています。

この他、17世紀の自然災害とアイヌ社会、火山災害考古学の現代的意義についてのコラム、最近の発掘からの報告(花粉・種実と昆虫遺体が語る縄文の生活史、南インド巨石文化を掘る)などが掲載されています。

全体として、この『季刊考古学146号 特集:火山災害考古学の展開』は、火山災害によって影響を受けた異なる時代や地域の人々の対応や、社会の影響、復興について、多角的な視点から深く考察しています。火山災害考古学、災害考古学、またそれに関連する分野の専門家や学生にとって、非常に価値のある一冊となっています。

津波災害痕跡の考古学的研究

著:裕彦, 斎野
¥9,900 (2023/09/01 13:37時点 | Amazon調べ)

『津波災害痕跡の考古学的研究』は、東日本大震災を実体験した考古学者、斎野裕彦著者によって執筆され、2017年9月30日に同成社から出版されました。この本は、将来の防災のために、考古学、文献学、地質学を駆使して津波災害の痕跡の調査法と分析法を提示します。

第1章では、津波災害の認識と痕跡調査研究の現状について議論されます。第2章では、地層の理解と調査研究方法について解説されます。第3章では、弥生時代中期の津波災害について、津波災害痕跡による研究が展開されます。第4章では、平安時代貞観11年(869年)の津波災害について、津波災害痕跡と一つの史料による研究が行われます。第5章では、江戸時代慶長16年(1611年)の津波災害について、複数の史料による研究が進められます。第6章では、これまでの章で得られた知見を総合化し、津波災害痕跡の調査研究について総括します。終章では、より正確な災害史の構築に向けた提言がなされます。

斎野裕彦氏は、1956年宮城県岩沼市生まれの博士(考古学)。仙台市教育委員会で埋蔵文化財行政を担当し、富沢遺跡の調査、沼向遺跡の調査、沓形遺跡の調査などに従事。2015年3月には、第3回国連防災世界会議で津波災害痕跡のシンポジウムを開催し、同年5月に仙台平野の津波災害痕跡の論文で第4回日本考古学協会奨励賞を受賞しました。

『津波災害痕跡の考古学的研究』は、考古学的手法を用いて、日本の歴史における津波災害の痕跡を解析し、その知見を将来の防災に役立てることを目指す重要な一冊です。

雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する

著:大浦 一志
¥3,850 (2023/09/01 13:40時点 | Amazon調べ)

『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』は、大浦一志(オオウラ・カズシ)著者によって執筆され、2021年12月10日に武蔵野美術大学出版局から出版されました。この本は、1990年11月に198年ぶりに噴火し、翌年6月に大火砕流(pyroclastic flow)が発生し、43人もの死者・行方不明者が出たほか、多くの建物などが被災した大惨事となった長崎県島原半島の雲仙普賢岳の事件を取り扱います。

この『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』は、自然の圧倒的なエネルギーと人間の営みの関わりを探る、思索と行動と鎮魂のアート・プロジェクトの記録です。著者、大浦一志は、1953年兵庫県生まれの美術家で、武蔵野美術大学造形学部教授。彼は、噴火の翌年、1992年から噴火後の自然と向き合い、定点観測という手法で、身体を通して記憶の地層を掘り起こし、見ることの深さを問う表現を続けてきました。この25年間の活動の軌跡が、この本に詳細に記録されています。本書には、記録写真を中心に図版が多数掲載されています。

著者は、1992年8月から東京と現地、長崎県南島原市を往復し、現地での自然と人間の関係を見つめる定点観測によるフィールドワークを続けてきました。被災地の風化と再生に向かう環境の中、彼は身体を通じて噴火後の自然を実感し、その過程で進行していた「普賢岳プロジェクト」の活動も進めてきました。2019年3月の時点で、彼のフィールドワークは51回(27年)におよびます。

『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』は、自然災害とその後の人間と自然の関わり、そして被災地の風化と再生に向けた取り組みについて、一人の美術家の視点から深く掘り下げた重要な一冊です。

自然災害と考古学―災害・復興をぐんまの遺跡から探る

編集:群馬県埋蔵文化財調査事業団
¥3,100 (2023/09/01 13:43時点 | Amazon調べ)

『自然災害と考古学―災害・復興をぐんまの遺跡から探る』は、群馬県埋蔵文化財調査事業団によって編集され、2013年7月1日に上毛新聞社から出版されました。この本は、群馬県内に残された自然災害の痕跡、特に火砕流(pyroclastic flow)、地震、洪水などの痕跡を発掘し、それらの災害からの復興、先人たちの生活様式、そして歴史を探るものです。

目次に示されている通り、この本は序章と3つの章で構成されています。

序章では、「遺跡から自然災害を考える」と題され、群馬県における発掘された自然災害跡や火山噴火史が紹介されます。

第1章では、「古噴時代の自然災害と遺跡」と題され、浅間山の噴火と古墳社会の形成、榛名山麓の火山災害(Hr‐FA)、黒井峯遺跡と火山災害(Hr‐FP)について詳しく探ります。

第2章では、「平安時代の自然災害と遺跡」と題され、弘仁の大地震とそれによる赤城南麓と国府周辺の地震被害、平安時代末期の浅間山大噴火、荒廃地の再開発と中世の幕開け、そして特別な寄稿として「女堀の再検討」について考察されます。

第3章では、「江戸時代の自然災害と遺跡」と題され、天明三年の浅間山噴火、その噴火からの復旧・復興、前橋城に刻まれた災害の記憶、古文書に残る浅間山火山災害、そして「災害考古学から学ぶこと」について探ります。

この『自然災害と考古学―災害・復興をぐんまの遺跡から探る』は、自然災害と考古学の視点を組み合わせ、過去の災害とその影響、復興の過程を具体的な遺跡や歴史的な記録から読み解きます。そのため、自然災害、歴史、考古学に興味のある読者にとっては非常に価値のある一冊となります。

まとめ

Japan is a country that experiences many natural disasters such as earthquakes, tsunamis, volcanic eruptions, etc.
日本は、地震、津波、火山噴火など、多くの自然災害に見舞われる国

自然災害と考古学の関係に焦点を当てた多くの重要な文献が存在しますが、特に『季刊考古学154号 特集:津波と考古学』、『季刊考古学146号 特集:火山災害考古学の展開』、『津波災害痕跡の考古学的研究』、『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』、そして『自然災害と考古学―災害・復興をぐんまの遺跡から探る』は、この分野において特に重要な貢献を果たしています。

『季刊考古学154号 特集:津波と考古学』は、津波(tsunami)とその遺跡に関連する考古学的な研究を探求し、津波によってもたらされる破壊と、それに続く人々の生活の再建についての洞察を提供しています。

一方、『季刊考古学146号 特集:火山災害考古学の展開』では、火山災害(volcanic disasters)に関連した考古学的研究が特集されており、火山活動によって影響を受けた地域の歴史や、その地域の人々がどのように災害に立ち向かい、生活を再建したかについての研究が掲載されています。

また、『津波災害痕跡の考古学的研究』は、過去の津波災害の痕跡を考古学的視点から解析し、その痕跡から読み取れる歴史的な背景や、津波災害からの復興の過程について詳しく調査しています。

『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』は、雲仙普賢岳(Unzen Fugendake)の噴火によって被災した民家の跡地の発掘に焦点をあて、自然の力と人間の活動との関係、そしてその地域の人々の歴史と記憶について深く探ります。

最後に、『自然災害と考古学―災害・復興をぐんまの遺跡から探る』は、群馬県内の様々な自然災害の痕跡を調査し、それらの災害からの復興、先人たちの生活様式、そして歴史を探る重要な研究を提供しています。

これらの文献は、それぞれ異なる角度から自然災害と考古学の関係に迫り、過去の災害から得られる教訓や、災害からの復興の過程、そして人々の生活の歴史を明らかにすることで、現代の災害対策や復興支援にも貴重な示唆を与えています。それぞれの研究が、災害と向き合うことの重要性、そして過去の歴史から学び、未来に生かすことの意義を強調している点が共通しています。

総括すると、これらの文献は自然災害と人間社会の相互作用についての深い洞察を提供し、過去の災害から得られる知識を活かし、未来の災害に備えるための基盤を築く上で、非常に重要な役割を果たしています。