植物考古学は、過去の人々と植物との関係を解明する学問分野です。この分野は、過去の植物の利用方法、農耕の起源、植物と人間社会の関係など、多岐にわたるトピックを研究しています。特に、日本の縄文時代における植物の役割や農耕の発展についての研究は、縄文人の生活や文化、社会における植物の重要性を理解する上で不可欠です。このブログ記事では、最近注目されている植物考古学に関連する書籍5冊を紹介します。これらの書籍は、縄文時代における植物の役割、農耕の発展、植物の利用方法などについての最新の研究成果を提供しています。興味深い内容であるとともに、これらの書籍は植物考古学の手法やアプローチについても学ぶことができるため、縄文時代の研究に興味のある読者、特に植物考古学や農耕の起源について知りたいと考えている読者にお勧めです。

植生史と考古学―人と植物の関係史を探る

工藤 雄一郎(Kudoh Yuichiro)編集の『季刊考古学第145号 植生史と考古学―人と植物の関係史を探る』は、人間と植物の関係史に焦点をあてた学際的な研究をまとめた一冊です。植生史研究(vegetation history research)は近年、人間と植物の関係史をテーマに、多様な分野の研究者によって進められてきています。この本は、その最新の研究動向と今後の展望を示す役割を果たしています。

『季刊考古学第145号 植生史と考古学―人と植物の関係史を探る』は、以下のようなテーマで構成されています。

  1. 微化石から描き出す人と森林との関係史 滋賀県の遺跡古生態学データベースを用いた植生景観の復元、火入れ(山焼き)の歴史を微粒炭と植物珪酸体から読み解く研究、宮城県多賀城跡の古代の森林破壊と土壌侵食、花粉散布距離の推定などが取り上げられます。
  2. 植物考古学の深化と植物利用研究 遺跡出土木材から見える森林資源利用、縄文・弥生時代の編組製品の素材植物、栽培植物、クリ利用、大径木の伐採技術、近世江戸の植物利用などが取り上げられます。
  3. 土器圧痕研究の新展開 圧痕家屋害虫学、縄文時代のマメ科植物の利用と栽培、土器底部圧痕と植物利用についての研究が取り上げられます。
  4. 新しい研究法の開発とその適用 酸素同位体比年輪年代法による植生史学・考古学研究の新展開、次世代シーケンシング技術がもたらす古DNA分析の新地平、遺跡出土大型植物遺体データベースとその意義についての研究が取り上げられます。

『季刊考古学第145号 植生史と考古学―人と植物の関係史を探る』は、2018年10月27日に雄山閣から出版されました。様々な専門分野の研究者によって寄稿されたこの書籍は、植生史学、考古学、植物考古学、生態学、土器研究、DNA分析など、多岐にわたる分野の最新研究を取りまとめています。

総じて、工藤雄一郎編集の『季刊考古学第145号 植生史と考古学―人と植物の関係史を探る』は、人と植物の関係を理解し深めるための研究の集大成であり、植生史、植物考古学、考古学、生態学など関連分野の研究者や学生にとって非常に価値のある一冊といえるでしょう。

さらにわかった! 縄文人の植物利用 (歴博フォーラム) 

編集:工藤 雄一郎, 編集:国立歴史民俗博物館
¥2,750 (2023/09/22 15:00時点 | Amazon調べ)

最近話題の植物考古学に関する書籍『さらにわかった!縄文人の植物利用』を紹介します。この書籍は、工藤雄一郎と国立歴史民俗博物館が編集したもので、縄文時代の初期、特に草創期、早期、前期に焦点を当てています。これらの時期は、縄文時代の3分の2、約9000年にわたる期間を占めており、多くの謎に包まれています。本書は、鳥浜貝塚、東名遺跡などの注目すべき低湿地遺跡で見つかった植物質遺物、特に多量に出土した編みかごの研究と最新の自然科学分析を通じて、縄文時代の高度な植物利用の知識と技術の起源を解明しようとしています。

著者の中には、考古学、植物考古学、植物解剖学、木材解剖学、植物形態学、古植物学、植生史学、造形教育、かご工芸などの多様な専門分野の研究者が含まれています。これらの専門家たちが、それぞれの分野の知識を持ち寄り、縄文時代の植物利用に関連する様々なトピックを解析しています。

本書は、以前にリリースされた『ここまでわかった!縄文人の植物利用』の続編であり、その内容をさらに深化・拡張しています。編みかご作りの技術や、それに関連する植物利用の知識、また、それらがどのように進化し、高度化していったかを探求するための重要な一冊です。

縄文時代の人々が、どのようにして植物を利用し、その技術を発展させていったのか、興味深いトピックについて、この『さらにわかった!縄文人の植物利用』は詳細かつ包括的な洞察を提供しています。植物考古学に興味のある研究者、学生、また、一般の読者にとって、この書籍は非常に有益であると考えられます。

植物考古学と日本の農耕の起源

著:中山 誠二
¥10,450 (2023/09/22 15:00時点 | Amazon調べ)

中山誠二氏の著書『植物考古学と日本の農耕の起源』は、日本列島における植物栽培の開始から農耕社会の出現までの歴史を、植物遺存体や植物圧痕などの遺跡から見つかる証拠を用い、最新の研究手法で分析することで解明し、人間と栽培植物の関係史を再評価するための重要な一冊である。

本書は、全7章から成り立っており、第1章では、日本列島の栽培植物や農耕起源に関する研究史を概観し、考古学、民族学、民族植物学、農学、遺伝学、植物考古学、古民族植物学からのアプローチを取り上げている。第2章では、植物栽培起源研究の方法論に焦点をあて、植物考古学の有効性、植物遺存体研究の問題点、大型植物遺存体の抽出と分析法、植物圧痕の試料化と分析法、植物遺存体の同定について議論している。

第3章では、栽培植物遺存体の同定に関する基礎的な研究を取り上げ、イネ科植物(Poaceae)、マメ科植物(Fabaceae)、シソ科植物(Labiatae)に焦点をあてている。第4章では、大型植物遺存体から見た植物栽培の起源と展開について考察し、植物遺存体のデータ抽出と試料評価基準の設定、東日本における栽培植物の出土状況、現段階の基準試料と栽培植物の出現・展開、東日本における縄文時代の栽培植物について詳述している。

第5章では、レプリカ・セム法による植物圧痕の研究について取り上げ、各遺跡のレプリカ・セム法による圧痕分析、レプリカ・セム法により検出された動植物圧痕について議論している。第6章では、縄文時代の植物利用と栽培植物について考察し、ダイズ属の利用と栽培、アズキ(Vigna angularis)の利用と栽培化、縄文時代の栽培植物の意義について詳述している。

最終章である第7章では、日本列島における稲作の波及と受容について考察し、重層化する稲作文化、縄文時代の稲作、縄文イネのきた道-稲作渡来経路に関する考古学的試論、灌漑型水稲農耕の開始と展開、集落景観の変貌と農耕化について取り上げている。

中山誠二氏は、1958年新潟県生まれ。1980年中央大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。2010年、東海大学より博士(文学)の学位を取得。本書の刊行時点で、山梨県立博士物学芸課長を務めている。

『植物考古学と日本の農耕の起源』は、考古学および自然科学による実証性の高い着実な手法を取り入れ、縄文・弥生時代における栽培植物さらには農耕の実態を解明し、日本の農耕の起源を問うきわめて重要な研究課題について、学会の潮流を導く先端的な著作であるといえる。

縄文時代の植物採集活動―野生根茎類食料化の民俗考古学的研究

山本 直人 (著)『縄文時代の植物採集活動―野生根茎類食料化の民俗考古学的研究』は、生態考古学の方法と研究史を概観した上で、縄文時代の植物採集活動、特に野生根茎類の食料化に関する仮説を提示し、詳細な民俗考古学的な研究を展開する一冊です。

山本直人氏の『縄文時代の植物採集活動―野生根茎類食料化の民俗考古学的研究』は、縄文時代の植物採集活動について、特に野生根茎類の食料化に焦点をあて、その民俗考古学的な研究を進めるものです。生態考古学の方法論と研究史を基に、根茎類の植物遺体から食料化の過程、それに関連する民俗モデルの構築、地域性・季節性、そして技術的背景などについて、詳細かつ論理的に解説しています。このように、本書は、縄文時代の植物利用についての新たな知見を提供し、その時代の生活様式や技術の進化についての理解を深めるための重要な資料となっています。

タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー) 


『タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー) 』は、小畑弘己(こばた ひろみ)によって書かれた書籍です。この本は、長らく狩猟採集や漁撈で生活していたとされる縄文人の食生活についての新しい視点を提供します。縄文人の生活についての一般的な考え方を打ち破ったのは、土器成形時に粘土に紛れ込んだダイズ(大豆)やコクゾウムシ(貯蔵食物害虫)の痕跡でした。

この『タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー) 』は、最新の技術、特にX線写真、CTスキャン、3D画像を使って、土器の中に隠れていた考古資料「タネ」「ムシ」を解析し、それによって縄文人の食生活についての新しい知見を得ることに焦点を当てています。具体的には、イネ(稲)やダイズの栽培開始時期を特定することができ、これによって縄文時代の多様で豊かな実像に迫ることができます。

『タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー) 』の内容は、序論として「想定外の発見」、そして、それに続くいくつかの章で構成されています。それぞれの章は、ダイズと縄文人、縄文人の生活、コクゾウムシと縄文人、イネの起源、圧痕法、草原での農耕など、異なるトピックに焦点を当てています。

特に、縄文時代の栽培植物、遺跡出土の昆虫と研究法、コクゾウムシから見た縄文人の暮らし、大陸系穀物の起源地、朝鮮半島から日本列島への移動、圧痕資料から見た九州後・晩期農耕論、圧痕法とその歴史、圧痕が残すもの、圧痕法のイノベーションなどについて、詳細に議論されています。

著者、小畑弘己は、1959年長崎県生まれ。1982年、熊本大学法文学部史学科卒業後、現在は熊本大学文学部歴史学科の教授であり、博士(文学)の学位を持っています。

この『タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー) 』は、考古学や歴史学に興味のある読者、特に日本の縄文時代や農耕の起源について深く知りたいと考えている読者にお勧めです。最新の科学技術を使って、新しい考古資料を解析し、縄文時代の豊かで多様な実像に迫る本書は、その分野における重要な一冊となるでしょう。

まとめ

Phytoarchaeology unravels the relationship between people and plants in the past.
植物考古学は、過去の人々と植物との関係を解明する

日本の縄文時代に関連する最近の書籍の中でも特に注目されているのが、植物考古学に焦点を当てたものです。これらの書籍は、縄文時代の人々と植物との関係、農耕の起源、植物の利用方法など、多岐にわたるトピックを取り上げています。以下、5つの注目すべき書籍について紹介します。

  1. 『季刊考古学第145号 植生史と考古学―人と植物の関係史を探る』: この書籍は、人間と植物の関係史についての深い洞察を提供しています。植生史と考古学の交差点に焦点を当て、人々がどのように植物を利用し、その利用方法がどのように進化してきたかについて考察しています。
  2. 『さらにわかった!縄文人の植物利用』: この書籍では、縄文人の植物利用についての最新の知見を提供しています。縄文時代の様々な遺跡から得られた植物遺物を分析し、それが縄文人の生活や文化にどのように影響を与えたかについて議論しています。
  3. 『植物考古学と日本の農耕の起源』: 日本の農耕の起源について考える上で、この書籍は必読です。植物考古学の手法を用いて、日本の農耕がどのように発展してきたかについて考察し、その発展の過程で人々の生活や社会がどのように変化したかについても考えます。
  4. 『縄文時代の植物採集活動―野生根茎類食料化の民俗考古学的研究』: この書籍では、縄文時代の植物採集活動に焦点を当てています。特に、野生の根茎類の食料化について、民俗考古学的なアプローチを取り入れながら分析しています。
  5. 『タネをまく縄文人: 最新科学が覆す農耕の起源 (歴史文化ライブラリー)』: この書籍は、前述のように、最新の科学技術を用いて縄文時代の農耕の起源に迫るものです。

これらの書籍を通じて、縄文時代の人々の生活や文化、社会における植物の役割、農耕の発展についての理解が深まります。また、植物考古学の手法やアプローチについても学ぶことができます。これらの書籍は、縄文時代の研究に興味のある読者、特に植物考古学や農耕の起源について知りたいと考えている読者にお勧めです。