令和5年度(2023年度)鞠智城跡「特別研究」の若手研究者募集が開始されました。これは、熊本県教育委員会が実施する事業で、平成24年度(2012年度)から続いており、今回で12回目の募集となります。過去11年分の研究助成採択者の成果論文については以下に別途まとめていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
鞠智城跡は、7世紀後半にヤマト政権によって西日本各地に築かれた古代山城の一つであり、熊本県を代表する重要な遺跡です。熊本県教育委員会は、その重要性を踏まえ、鞠智城跡の構造解明を目的とした発掘調査を進めるとともに、歴史公園としての整備・活用に取り組んでいます。
鞠智城跡「特別研究」事業は、平成23年度(2011年度)に熊本県教育委員会が刊行した総合報告書『鞠智城跡II』の研究成果を基に、鞠智城跡に関する研究のさらなる深化・蓄積を図るとともに、鞠智城跡に関連した諸分野の研究に携わる若手研究者を広く支援・育成することを目的としています。
今回の募集では、鞠智城跡を主題とした古代史に関する研究が対象となり、考古学、文献史学、歴史地理学、建築史学、土木工学、美術史学等の幅広い分野の研究が歓迎されます。応募資格は、令和5年(2023年)4月1日現在で20歳から40歳までの個人です。募集期間は令和5年(2023年)5月12日(金)まで(必着)で、採用員数は4名以内となっています。研究助成費は、1名につき50万円が支給されます。
この「特別研究」募集は、鞠智城跡に関する研究を通じて、古代史の理解を深めるだけでなく、若手研究者の支援・育成にも力を入れています。鞠智城跡は東アジア情勢が緊迫した時代に築かれた遺跡であり、その構造解明や関連研究が今後の古代史研究に重要な意義を持つことが期待されます。
過去11年間の「特別研究」では、多くの優れた研究成果が生み出され、古代史研究の進展に寄与しています。今回の募集を通じて、さらに多くの若手研究者が鞠智城跡を研究の対象とし、新たな知見や視点を提供することを期待しています。
興味を持たれた方は、ぜひ令和5年度(2023年度)鞠智城跡「特別研究」に応募してみてください。研究を通じて、古代史の謎が少しでも解明されることで、歴史研究の新たな道が開かれることでしょう。
今回の募集を機に、鞠智城跡を中心に、古代史研究の発展が期待されます。研究者の皆さんには、積極的に応募していただきたいと思います。応募締切は令和5年(2023年)5月12日(金)必着ですので、お忘れなくご応募ください。
最後に、過去11年分の研究助成採択者の成果論文については別途まとめていますので、これまでの研究の流れや成果について興味がある方は、そちらもぜひご覧いただければと思います。
以上、令和5年度鞠智城跡「特別研究」若手研究者募集についてのお知らせでした。今後の研究発展に期待が寄せられるこの機会に、ふるってご応募ください。
これまでの鞠智城跡「特別研究」
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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内海 史郎 | 川口市教育委員会 学芸員 | 鞠智城周辺における条里痕跡から復元する古代交通路の様相 |
中原 彰久 | 佐世保市教育委員会 文化財専門職 | 古代山城からみる古代道路の関係とその視認性 |
藤井 貴之 | 東大谷高等学校 教諭 | 九世紀における鞠智城倉庫群の基礎的考察 |
村上 幸奈 | 熊本県教育庁教育委員会 学芸員 | 鞠智城出土・銅造菩薩立像についての考察 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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岡田 有矢 | 熊本市⽂化財課⽂化財専⾨職 | 出土土器からみた平安時代肥後国内における鞠智城の位置付け |
垣中 健志 | 奈良⽂化財研究所研究員 | 地域社会からみた鞠智城 -八世紀から十世紀を中心に - |
河野 保博 | ⽴教⼤学⽂学部兼任講師 | 古代九州北部における馬匹生産の展開と鞠智城 |
全 赫基 | 國原⽂化財研究院研究員 | 韓国の古代山城の集水施設からみた鞠智城の研究課題 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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越智 勇介 | 大阪府泉大津市立織編館嘱託学芸員 | 国家形成期における倭王権の交通と鞠智城 |
柿沼 亮介 | 早稲田大学高等学院教諭 | 古代国家による辺境支配と鞠智城の機能の変質の相関 |
小嶋 篤 | 九州国立博物館研究員 | 火国の領域設定と鞠智城 |
西村 健太郎 | 中京大学文学部古文書室学芸員 | 鞠智城の築造過程と古代肥後の氏族的特質 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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新飼 早樹子 | ソウル大学校人文大学国史学科博士後期課程 | 八世紀の国際情勢及び古代日本の対外措置からみる鞠智城の機能変遷過程に関する試論-Ⅲ期・Ⅳ期八世紀第四半期を中心に- |
土居 嗣和 | 早稲田大学高等学院・成城高等学校非常勤講師 | 律令国家と「鼓」 -「鼓自鳴」記事との関わりから- |
古田 一史 | 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程 | 律令国家の軍事行政における鞠智城 |
溝口 優樹 | 大阪大学大学院文学研究科助教 | 氏族からみた古代肥後の地域社会と鞠智城 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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大高 広和 | 福岡県世界遺産室文化財専門職 | 日本古代の兵庫と鞠智城 |
里舘 翔大 | 明治大学大学院博士後期課程 | 平安時代の鞠智城周辺の国内情勢 |
主税 英徳 | 基山町教育委員会文化財専門職 | 日韓古代山城の水門構造からみた鞠智城 |
林 奈緒子 | 東京大学大学院博士課程 | 古代の烽ネットワークと鞠智城 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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小澤 佳憲 | 九州歴史資料館文化財専門職 | 石垣構築技術からみた鞠智城跡石垣の位置づけ |
金田 明大 | 独立行政法人国立文化財機構職員 | 高精度物理探査手法による鞠智城広域遺構配置の把握 |
堀内 和宏 | 長崎県教育庁新幹線文化財調査事務所文化財専門職 | 鞠智城と古代西海道の官衙・交通路 |
山田 隆文 | 奈良県立橿原考古学研究所研究員 | 古代山城の立地環境 ─百済・新羅との比較を通して─ |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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近藤 浩一 | 京都産業大学 非常勤講師 | 八世紀(Ⅱ期~Ⅲ期)の鞠智城と肥後地域 -新羅山城との比較検討から- |
須永 忍 | 明治大学日本古代学研究所 研究推進員 | 古代肥後の氏族と鞠智城 -阿蘇君氏とヤマト王権- |
野木 雄大 | 福岡県人づくり・県民生活部文化振興課世界遺産登録推進室 主任技師 | 十世紀における国家軍制と鞠智城 |
山口 裕平 | 行橋市教育委員会 文化財専門職 | AR・VR技術を応用した鞠智城跡整備の一例 -城門遺構について- |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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五十嵐 基善 | 明治大学文学部兼任講師 | 西海道における武具の生産・運用体制と鞠智城 |
井上 翔 | 東京大学大学院博士課程 | 鞠智城と東北の城柵官衙 |
太田 智 | 福岡大学大学院博士課程 | 消費者から見た須恵器の流通-鞠智城・官衙・周辺集落の比較検討を通して- |
小嶋 篤 | 九州国立博物館研究員 | 鞠智城築造前後の軍備 |
近藤 浩一 | 京都産業大学非常勤講師 | 新羅との外交・交流史からみた肥後地域・鞠智城-八角形建物を代表とする鞠智城Ⅱ期に対する再検討- |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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五十嵐 基善 | 明治大学大学院博士後期課程 | 西海道の軍事環境からみた鞠智城の機能 |
清田 美季 | 京都大学大学院博士後期課程 | 8世紀における古代山城の展開と官衙・寺院 |
近藤 浩一 | 京都産業大学非常勤講師 | 古代朝鮮半島と肥後地域の交流史からみた鞠智城-鞠智城の築城背景と役割を探る- |
西本 哲也 | 東京大学大学院博士後期課程 | 鞠智城地域と大宰府-古代の地方行政と西海道- |
南 健太郎 | 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター助教 | 石積技術からみた古代山城築造集団の研究 |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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有働 智奘 | 國學院大學兼任講師 | 古代肥後における仏教伝来-百済達率日羅と鞠智城出土遺物を中心として- |
小澤 佳憲 | 九州歴史資料館 | 鞠智城と朝鮮式山城・神籠石-築城技術から見た鞠智城の位置づけ- |
柿沼 亮介 | 東京大学大学院博士課程 | 朝鮮式山城の外交・防衛上の機能の比較研究からみた鞠智城 |
菊池 達也 | 広島大学大学院博士課程 | 律令国家成立期における鞠智城-隼人・南島との関連を中心に- |
古内 絵里子 | お茶の水女子大学大学院博士課程 | 日本における古代山城の変遷-とくに鞠智城を中心として |
氏名 | 所属(当時) | 研究助成成果論文タイトル |
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大高 広和 | 福岡県世界遺産登録推進室 | 八世紀西海道における対外防衛政策のあり方と朝鮮式山城 |
貞清 世里 | 西南学院大学大学院博士課程 | 肥後地域における鞠智城と古代寺院について |
早川 和賀子 | 九州大学大学院博士課程 | 造瓦組織編成からみた肥後地域における地方支配展開に関する研究 |
古川 順大 | 九州大学大学院博士課程 | 鞠智城が肥後在地社会にあたえた影響 |
宮川 麻紀 | 東京大学大学院博士課程 | 鞠智城築城の背景―肥君の拠点と交通路の複眼的検討― |
まとめ
過去11年間の鞠智城跡特別研究における研究助成採択者と論文タイトルを基に、日本古代史における鞠智城の研究がどのように発展してきたかを概観します。以下のようなテーマが研究されてきました。
- 鞠智城の築城技術と古代交通路の復元
- 古代山城の立地環境と視認性
- 倭王権の交通と鞠智城の機能変遷
- 鞠智城の築造過程と古代肥後の氏族的特質
- 8世紀の国際情勢と鞠智城の対外措置
- 鞠智城と古代西海道の官衙・交通路
- 韓国の古代山城と鞠智城の比較研究
- 古代肥後の氏族と鞠智城の関係
- 鞠智城と東北地方の城柵官衙
- 古代朝鮮半島と肥後地域の交流史
これらの研究は、鞠智城の築城技術や交通路、立地環境、機能、国際情勢や古代朝鮮半島との関係性、地域社会の影響など、さまざまな視点から鞠智城を総合的に解析しています。研究者たちは、鞠智城の意義や役割を明らかにするために、律令国家の軍事行政、古代九州北部の馬匹生産、古代日本の対外措置、古代肥後の氏族的特質、鞠智城出土の遺物、古代山城の立地環境などを調査・分析しています。
これらの研究成果は、日本古代史の理解を深めるだけでなく、古代山城や古代交通路、地域社会の研究においても貴重な資料となっています。今後も、研究者たちによる鞠智城の研究が進展することで、日本古代史の新たな発見や理解が期待されます。
これまでの研究成果を受けて、鞠智城跡特別研究では今後さらに次のような研究テーマにが必要になってくると考えられます。
- 鞠智城の防衛機能とその変遷
- 鞠智城における文化交流の痕跡
- 築城技術の発展と鞠智城周辺地域の関係
- 鞠智城と地域社会の発展:経済・文化・信仰
- 鞠智城と古代肥後の地域政策
これらの新たなテーマを追求することで、鞠智城の研究はさらに発展し、その成果は日本古代史や地域史研究、さらにはアジア全域の文化交流や国際関係に関する研究にも貢献していくことが期待されます。
また、鞠智城跡特別研究の取り組みは、地域住民や学校教育、観光業にも影響を与えています。地域住民によるボランティア活動や、学校教育での歴史的遺跡の取り上げ、観光資源としての鞠智城跡の整備や情報発信など、鞠智城跡の価値を広く伝えることで、地域活性化や文化財保護にも寄与しています。
これらの取り組みは、鞠智城跡特別研究の目的である日本古代史の解明だけでなく、現代社会においても様々な形で貢献していることがわかります。今後も、鞠智城跡特別研究は研究成果の発表や情報共有を通じて、地域との連携を強化し、歴史文化遺産の保護と活用に努めていくことが期待されています。
関連情報
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令和3年度鞠智城跡「特別研究」成果報告会の動画だよ!
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令和4年度鞠智城シンポジウムのパネルディスカッションで、鞠智城などの古代山城における渡来系技術の活用に焦点を当てたものです。鞠智城と朝鮮半島との関係、インフラ整備、伝統技術と現代技術の使い分けなど、さまざまな専門家が議論しています。また、古代山城の建設や修復において、地域の地形や環境を理解することの重要性にも触れています。