鳥取県には、古代から中世、近世に至るまでの豊かな歴史が息づいており、18,103ヶ所もの遺跡が確認されています(令和6年5月現在)。考古学的にも非常に重要な地域であり、今回はその中から、訪れる価値の高い埋蔵文化財と史跡を厳選してご紹介します。
古代の息吹を感じる遺跡
因幡国庁跡(国史跡)
鳥取駅から約4km、国府町に位置する因幡国庁跡は、奈良時代に国の政治拠点として機能した官衙の跡で、国史跡に指定されています。当時の「県庁」にあたる施設で、現在は静かな田園地帯にひっそりと佇んでいます。因幡三山(甑山、今木山、面影山)に囲まれた「万葉の里」の中心として、古代の風景が今も色濃く残るスポットです。鳥取県埋蔵文化財センターから徒歩約40分の距離にあります。
乙亥正屋敷廻遺跡
鳥取市鹿野町に所在する乙亥正屋敷廻遺跡は、弥生時代末から古墳時代初頭(約1800〜1600年前)の遺構が発見されている注目の遺跡です。谷地に造られた水路には、板材を杭で固定した護岸工法が用いられ、高度な土木技術がうかがえます。湧水が豊富な環境ゆえに木製品や建築材が良好に保存されており、青谷上寺地遺跡でも見られる「花びら状の飾り彫り」が施された高杯(たかつき)も出土しています。
鷺山古墳
鳥取平野には50基を超える前方後円墳が点在しており、航空レーザー測量により墳丘の詳細が明らかになってきています。なかでも鷺山古墳(県史跡)は、鳥取平野の中でも規模が大きく、因幡地方の古墳文化を代表する存在です。奥谷口バス停からバスで5分、因幡万葉歴史館入口バス停から徒歩約35分の場所にあります。
戦国の記憶を残す城跡
鳥取城跡
久松山に築かれた鳥取城は、戦国時代に吉川経家が籠城し、豊臣秀吉の兵糧攻めで名を馳せた名城です。天守は現存しませんが、水堀や石垣が良好に残され、なかでも球面状に積まれた石垣は国内でも極めて珍しく、城郭ファンから高い注目を集めています。二の丸からの眺望も素晴らしく、鳥取市街を一望できます。
防巳尾城跡
鳥取駅からバスで約30分の防巳尾城跡は、吉岡将監という戦巧者の地侍が守り、天正9年(1581)の鳥取城攻防戦で秀吉軍を幾度も退けたことで知られています。規模こそ小さいものの、堅牢な守りを誇った山城として戦国史に名を残しています。
近代化の歩みを物語る遺構
旧美歎水源地水道施設(国重要文化財)
鳥取市国府町にあるこの施設は、大正4年に通水を開始した近代水道施設で、設計は鳥取市技師長・三田善太郎によるものです。現在は国の重要文化財に指定され、近代土木遺産としても高く評価されています。鳥取県埋蔵文化財センターから車で10分ほどの場所にあります。
歴史を学ぶ拠点施設
鳥取県埋蔵文化財センター
鳥取駅から車で約5分、国府町にある本センターでは、旧石器時代から古墳時代までの代表的な遺跡や出土品を常設展示しています。教科書に登場する遺物に直に触れられる場でもあり、体験学習として勾玉づくりや火起こし体験なども実施されています。無料で入館できる点も魅力です。
因幡万葉歴史館
「万葉集」に詠まれた因幡の風土と歴史を紹介する施設で、周辺には大伴家持の歌碑なども点在しています。万葉文化に触れる拠点として、因幡の歴史的な深みを実感できます。
信仰と生活文化を伝える史跡
鳥取藩主池田家墓所(国史跡)
江戸時代の鳥取藩主・池田家の墓所で、格式高い大名家の葬送文化を今に伝える貴重な遺構です。鳥取県埋蔵文化財センターから徒歩約25分の距離に位置します。
宇倍神社(因幡一宮)
因幡国一宮として古代から信仰を集める神社で、神社建築や信仰の歴史にふれることができます。こちらも埋蔵文化財センターから徒歩圏内です。
発掘調査が明かす新たな発見
長瀬高浜遺跡
令和4年度の調査では、古墳時代初頭の竪穴建物跡や鎌倉時代の畠跡などが確認され、土器や鉄器、石器、玉類といった多彩な遺物が出土しています。時代を超えた人々の生活を知るうえで、非常に貴重な成果です。
観光のヒントとアクセス
史跡巡りは、鳥取駅を拠点にすると効率的です。埋蔵文化財センター、鳥取城跡、因幡国庁跡、因幡万葉歴史館など主要スポットが比較的近距離にまとまっており、バスや車で巡ることができます。
なかでも埋蔵文化財センターは、体験プログラムや充実した展示内容があり、家族連れにもおすすめです。史跡見学を通じて、教科書では味わえない生きた歴史を体感できるでしょう。
まとめ

鳥取県は、古代の因幡国の中心である国府町をはじめ、戦国時代の城跡や近代化遺産まで、多様な時代を映し出す歴史遺産が豊富に残されています。
今回ご紹介した史跡・遺跡は、その中でも特に訪れる価値の高い場所ばかりです。現地を訪れ、実物に触れることで、歴史がより身近でリアルなものとして立ち現れてくるはずです。