半世紀前の1973年9月12日、一つの歴史的瞬間が東中根台地に刻まれました。それは、虎塚古墳(Tora-zuka Kofun)の石室内での壁画の発見です。この壁画は、日本の古墳文化における大きな発見となり、その価値は学術的にも社会的にも計り知れません。調査団のメンバーの一人が「壁画だ!」と叫んだ瞬間、場にいた人々の興奮と感動は、文字通り歴史に名を刻みました。

そして、その感動的な瞬間からちょうど50年が経過し、2023年9月12日はこの記念すべき発見からの50周年の日となります。この節目の年に、虎塚古墳の魅力や歴史的背景をさらに深く知りたい方のために、関連するおすすめの書籍を5冊厳選して紹介します。これらの書籍を通して、半世紀前の興奮と感動を今一度、心の中で再現し、古代の謎と美しさを再発見してみませんか。

装飾古墳と海の交流 虎塚古墳・十五郎穴横穴墓群

『装飾古墳と海の交流 虎塚古墳・十五郎穴横穴墓群』(シリーズ「遺跡を学ぶ」134)は、稲田健一著、新泉社から2019年4月3日に発売された書籍である。この著作は、茨城県ひたちなか市の那珂川流域に存在する特徴的な古墳に焦点を当てている。

中心的なテーマとしては、白く塗られた石室壁面に赤い円文や三角文を施された装飾古墳、さらに、東日本最大級とされる横穴墓群が連なる台地の斜面や、太平洋に面する崖に並ぶ石棺墓に関する詳細が綴られている。これらの古墳が古墳時代後期に誰によって、どのような背景や目的で建造されたのか、そして、装飾古墳の本場である九州との関連性について深掘りしている。

著者、稲田健一は1969年に茨城県ひたちなか市で生まれ、1993年に立正大学文学部史学科を卒業。彼は現在、(公財)ひたちなか市生活・文化・スポーツ公社ひたちなか市埋蔵文化財調査センターに勤務しており、その背景から地元に関する深い知識を持っていることが伺える。また、彼の過去の著作、例えば「ひたちなか市域の古墳群」や「常陸国の7世紀」なども、この地域の古墳に関する専門的な研究を基にしており、本書もその一続きとして非常に信頼性の高い内容となっていることが期待できる。

この『装飾古墳と海の交流 虎塚古墳・十五郎穴横穴墓群』は、古墳時代の日本の文化や歴史に興味を持つ読者や研究者にとって、貴重な情報源となるであろう。特に、地域性と広域的な交流を中心にした視点からの考察は、古墳時代の日本の社会や文化のダイナミクスを理解する上で新しい視角を提供してくれる。

虎塚古墳―関東の彩色壁画古墳

著:鴨志田 篤二
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『虎塚古墳―関東の彩色壁画古墳』は、鴨志田篤二著のもと、2005年10月1日に同成社から出版された書籍です。この本は、東日本において極めて珍しい特徴を持つ古墳、虎塚古墳に関する総合的な研究と解説を提供しています。

虎塚古墳は、彩色装飾壁画を持つ前方後円墳(keyhole-shaped tomb)として知られる。この古墳の壁画は、日本における石室内の保存科学調査の先駆けとなるもので、その存在自体が非常に価値のあるものです。本書では、壁画の発見から調査に至るまでの過程を、第一線での研究に関与してきた鴨志田篤二自らが詳しく語っています。

具体的な内容として、以下の8つの章から構成されています。

  1. 虎塚古墳の位置とその歴史的環境
  2. 虎塚古墳及びその周辺の調査史
  3. 虎塚古墳の具体的な調査内容
  4. 虎塚古墳の規模について
  5. 石室(stone chamber)の構造と出土した遺物に関する詳細
  6. 壁画の構成や特徴
  7. 保存科学調査に関する詳しい情報
  8. 虎塚古墳の壁画とその背後にある文化や歴史的背景

『虎塚古墳―関東の彩色壁画古墳』は、虎塚古墳の特異性や価値を理解するための欠かせない情報源となっています。古墳や壁画に関する研究や興味を持つ人々にとって、この書籍はその知識をさらに深めるための貴重なガイドブックと言えるでしょう。

「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる

祥伝社から2014年2月4日に刊行された『「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる』は、日本考古学界の巨匠、大塚初重による著作です。これは、大人気となっている「明治大学リバティアカデミー」の社会人講座を収めた書籍化の第2弾となっており、特に装飾古墳の謎と魅力に焦点を当てています。

装飾古墳とは、彩色壁画を持つ古墳のことを指し、これらの壁画は日本列島においては九州と東日本に集中して存在しています。しかし、その意味や背景については今なお多くの謎が残されています。この書籍では、彩色壁画に描かれる様々な文様や人物、動植物、道具等の意味や背景に関して、諸説を検討しながら真相に迫る試みが行われています。

大塚初重は、その60余年にわたる考古学における経験を基に、自らが発見・発掘を手がけた古墳、特に茨城の虎塚古墳や九州の古墳群、さらには全国的な話題となった高松塚古墳などの調査結果を再検証。そこから、古代の人々の葬送の真実や文化、歴史についての新たな知見や考察を読者に提供しています。

著者、大塚初重は1926年に東京で生まれ、明治大学での長い教育・研究のキャリアを通じて、日本考古学界の第一人者としての地位を築き上げました。彼は、登呂遺跡(静岡)、綿貫観音山古墳(群馬)、虎塚古墳(茨城)など、多数の遺蹟の発掘調査に携わり、その成果は多岐にわたります。彼の多大なる貢献は、日本学術会議会員や日本考古学協会会長、山梨県立考古博物館館長といった役職を歴任することとなりました。

この『「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる』は、考古学や古墳に関心を持つすべての読者にとって、装飾古墳の魅力と謎を深く理解するための貴重な一冊と言えるでしょう。

装飾古墳の謎

著:河野 一隆
¥1,595 (2023/09/13 09:20時点 | Amazon調べ)

河野一隆による『装飾古墳の謎』は、2023年1月19日に文藝春秋から発売された注目の書籍です。本作は、古代の石室内部を赤、緑、黄、黒などの鮮やかな文様で装飾する「装飾古墳」(Decorated Kofun)に関する深い謎を解明しようとするものです。

装飾古墳は、4世紀半ばから7世紀にかけて日本に現れたものとされ、この古代のアート(Ancient Art)は多くの謎を抱えています。この書籍では、カラー図版を多用して、装飾古墳の謎に対しての答えを世界的な視点から探求しています。

河野一隆は、以下のような疑問点を中心に調査・考察を行っています:

  1. 九州や関東周辺に装飾古墳が集中しているのに対し、近畿地方にはその数が少ない理由は何なのか。
  2. 九州地方に装飾古墳が多いのは、もしかして中国との近接性が関係しているのか。
  3. 筑紫磐井の乱の敗北が装飾古墳の誕生の一因であるという通説の真偽を検証する。
  4. 埋葬施設に装飾を施す意味や背景、そこに込められたメッセージや意図は何なのか。
  5. 日本国外で、装飾古墳のような装飾された埋葬施設の存在を探る。

河野一隆の筆致により、これらの疑問点が明快にかつ深く考察され、読者は古代日本の文化や歴史、さらにはその背後に隠れた思想や信仰についての新たな視点を得ることができます。『装飾古墳の謎』は、歴史愛好者や考古学に興味を持つすべての人々にとって、貴重な一冊となることでしょう。

装飾古墳ガイドブック―九州の装飾古墳

著:柳沢 一男
¥2,750 (2023/09/13 09:24時点 | Amazon調べ)

『装飾古墳ガイドブック―九州の装飾古墳』は、柳沢一男著のもと2022年2月15日に新泉社から発売された書籍です。本書は、九州地方の装飾古墳(Decorated Kofun)に焦点を当てた、深い洞察と研究の結果をまとめたガイドブックです。

石室を埋め尽くす多彩な色合いと文様、それらが描写する歴史や背後に潜む意味を中心に、装飾古墳の持つ古代のロマンと神秘性が詳しく解説されています。具体的には、赤・黒・緑・黄の三角文、騎馬や船の図文、天空の星を模した珠文や得体の知れない怪獣を思わせる図文、そして謎に満ちた直弧文や双脚輪状文、蕨手文など、多岐にわたる図文が取り上げられています。

書籍は、単なる図文の紹介だけでなく、装飾古墳の歴史的背景や変遷、そして装飾がなぜ行われたのかという核心に迫る内容となっています。柳沢一男は、装飾古墳の歴史や背後に隠された意味を、考古学研究の最新の知見を元に分かりやすく語り下ろしています。

目次を見ると、装飾古墳の変遷が三つの時期に分けて詳細に解説されており、各時期に特有の図文や装飾技法、背景にある歴史や文化的影響が段階的に紹介されています。また、九州の装飾古墳と朝鮮半島とのつながりや、特定の古墳に見られる独特な図文も詳しく取り上げられています。

装飾古墳の図文は、ただの墓室内の飾りではなく、古墳時代の人々の死者への深い想いや信仰、文化や歴史が映し出されているものです。『装飾古墳ガイドブック―九州の装飾古墳』を手にとれば、読者は九州の装飾古墳を通して、古代の人々の心の中に旅をすることができるでしょう。

まとめ

Decorative burial mound with red circular and triangular patterns painted on the white-painted stone chamber walls.
白く塗った石室壁面に赤い円文や三角文を描いた装飾古墳

装飾古墳(Decorated Kofun)は、古代日本の墓制文化を色鮮やかに描き出す、歴史と美術の交差点に位置する存在です。今回、その装飾古墳に特化した5冊の書籍を紹介しました。それぞれの書籍が持つ焦点と特色を、簡潔にまとめてみましょう。

  1. 『装飾古墳と海の交流 虎塚古墳・十五郎穴横穴墓群』
    この書籍は、装飾古墳と海を結ぶ文化的・経済的な交流に焦点を当てています。特に、虎塚古墳や十五郎穴横穴墓群の存在を通じて、海を越えた交流が古墳時代の文化や装飾技法に与えた影響を詳しく探求しています。
  2. 『虎塚古墳―関東の彩色壁画古墳』
    関東地方の代表的な装飾古墳である虎塚古墳に注目した一冊。この古墳独自の彩色壁画とその背後にある歴史や信仰を深く掘り下げています。関東地方の装飾古墳文化を知る上で、欠かせない一書といえるでしょう。
  3. 『「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる』
    考古学の観点から装飾古墳の謎に迫る本作は、学術的なアプローチで古墳の文化や背景を解説しています。装飾古墳の研究の最前線での議論や新たな発見も織り交ぜられており、学問的な深さを求める読者におすすめです。
  4. 『装飾古墳の謎』
    タイトルの通り、装飾古墳の多くの謎を探求する書籍。なぜ装飾が施されたのか、どのような技法や意図が込められているのか、多方面からその謎を解き明かしていきます。古墳の神秘性やロマンに浸りたい読者には、特に魅力的な一冊となっています。
  5. 『装飾古墳ガイドブック―九州の装飾古墳』
    九州地方の装飾古墳に特化したガイドブック。地域性豊かな装飾古墳の特色や歴史、そして背後に隠された意味や文化を段階的に紹介しています。九州の装飾古墳を旅する際の必携の書とも言えるでしょう。

これらの書籍を通して、装飾古墳が持つ多様性や深さ、そして古代日本の人々の心の中に秘められた信仰や文化を感じることができます。歴史愛好者や考古学に興味のある方は、これらの書籍を手に取り、古代の美と謎に触れてみてはいかがでしょうか。