2025年3月現在のエジプト考古学研究は、新技術の導入による非破壊調査の進展、未発掘地域での新発見、そして既存の遺物の再解釈に焦点を当てた研究が活発化しています。本報告では、ギザのピラミッド地区、サッカラなどの重要遺跡における最新の発掘成果と、日本を含む国際研究チームによる研究プロジェクト、さらに日本国内で開催される展示会について包括的に概観します。

最新の発掘調査と発見

ギザのピラミッド周辺地域における新発見

クフ王の大ピラミッド近郊では、考古学研究チームが2021年から2年間にわたり、西部墓地で地中レーダー(GPR)と電気抵抗トモグラフィ(ERT)による地下探査を実施し、画期的な成果を挙げています。西部墓地には古代エジプトの王族や貴族・高官が埋葬されたマスタバと呼ばれる形式の大墳墓群があるものの、その中央部には地上に構造物のない「空白地帯」が存在していました[2]。

この調査で研究チームは、「石灰岩の垂直壁、あるいは墳墓構造につながる立坑」の可能性がある大きな異常部(アノマリー)を発見しました。詳細な探査の結果、地下0.5〜2メートルのところに約10×15メートルのL字型の構造物があることが確認され、さらに深い地下5~10メートルのところには別の異常部も発見されています[2][9]。

有名なエジプト考古学者ザヒ・ハワスは、「ピラミッド地域での重要な考古学的発見を2025年に発表する予定」と述べており、現在調査チームによって詳細な調査が進められています。特筆すべきは、「大ピラミッドの壁の背後にあるものを探るための特殊なロボットを現在開発中」という点で、最新技術を活用した非破壊調査が進行中です[13]。

サッカラ遺跡における新発見

サッカラ遺跡では、エジプトと日本の考古学者による共同チームが第2王朝と第3王朝(紀元前2890〜2613年頃)の時代に遡る4つの墓を発見しました。このうち2つはマスタバ(泥レンガ構造)、他の2つは岩を直接彫り込んだ墓です。岩窟墓の一つには石灰岩の扉で封印された竪坑があり、今後の発掘調査で開けられる予定とのことです[4]。

さらに同遺跡では、第18王朝(紀元前1550〜1292年頃)、いわゆる「新王国時代」の埋葬も10数基発見されており、ヒクソス追放後のサッカラ地域の再活性化を示唆しています[4]。

日本のチームによる北サッカラ遺跡での発掘調査では、当初目的としていた新王国時代の墓地調査に加え、予想外の発見として紀元前1世紀から紀元後1世紀に年代づけられるグレコ・ローマン時代のカタコンベ(地下集団墓地)をほぼ未盗掘の状態で発見しています。これはサッカラ遺跡だけでなくナイル川流域における初のグレコ・ローマン時代のカタコンベの発見であり、コロナ禍により一時中断していた調査が2023年2月に再開され、当時の埋葬習慣を明らかにする極めて貴重な資料が得られました[3]。

継続中の主要研究プロジェクト

日本隊によるエジプト考古学研究

日本のエジプトにおける考古学調査・研究は1966年に始まり、早稲田大学の吉村作治氏を学生隊長とする調査隊がエジプトでのジェネラルサーベイを実施したことが、現在の日本のエジプト考古学の基礎となっています[1]。

現在、複数の日本の研究機関がエジプトでの発掘調査を継続しています。筑波大学の研究チームはダハシュール北遺跡の調査を行っており、新王国時代のメンフィス地域の考古編年を構築し、エジプト南部のテーベ地域との比較研究を進めています。この研究では、墓の遺構の通時的変化が明らかになり、特に第19王朝後期以降では竪穴の長軸が東西方向で西側の部屋を指向する傾向が確認されました。これはテーベ地域の王墓からの影響と考えられています[6][11]。

また、デルタ地域ではダラム大学のペニー・ウィルソン博士率いるチームが「デルタサーベイプロジェクト」を実施しており、下エジプトの考古学的遺跡の現状評価を行っています。このプロジェクトでは、マッピング、地球物理学的調査、土器の記録、写真撮影などを通じて遺跡の考古学的資料とリスクを記録しています[5]。

最新技術の応用

エジプト考古学では、非破壊調査技術の応用が急速に進んでいます。ギザの大ピラミッド近くの調査では、地中レーダー(GPR)と電気抵抗トモグラフィ(ERT)という地球物理学技術が使用され、地下構造物の探知に成功しています[2][9]。

一方、日本の研究チームは、墓の遺構の全天球カメラと通常のカメラを併用した写真測量を実施し、高解像度でシャフト墓の3Dデータを作成する手法を確立しました。さらに、Googleが公開しているライブラリmodel-viewerを用いて3Dデータをウェブブラウザで表示する仕組みも導入しており、研究成果の情報公開に活用されています[6]。

展示会・研究発表

日本国内の展示会

2025年は日本国内でもエジプト考古学関連の展示会が多数開催されています。早稲田大学歴史館では「古代エジプトの生活 ~早大隊の発掘調査から辿る古代の暮らし」と題した企画展が2025年4月18日から6月22日まで開催予定です。この展示では、早稲田大学がエジプト政府から発掘権を得て最初に発掘したマルカタ南遺跡からの出土品が展示され、古代エジプト人の日常生活が紹介されます[1]。

また、本庄早稲田の杜ミュージアムでは「古代エジプトの棺と埋葬:その来世観とは?」展が2025年1月28日から5月25日まで開催中です。吉村作治氏が率いた調査隊がマルカタ南遺跡で発見した遺物群、特に色鮮やかな陶製の棺がメインの展示となっています[7]。

さらに、今年は世界最大のエジプト考古学博物館「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum, GEM)」がカイロ近郊に2025年7月に開館予定であり、それに合わせて日本でもピラミッドの建造方法やツタンカーメン王の黄金の秘宝、ラムセス2世の遺産などを紹介する展覧会が各地で開催されています[8]。

学術研究発表

2025年の学術研究発表も活発に行われています。1月23日には筑波大学西アジア文明研究センターで「一柱から二柱へ:古代エジプトの二柱の正義の女神の研究」と題した研究会が開催されました[12]。

また、3月22日と23日には第32回西アジア発掘調査報告会が東京文化財研究所で開催され、2024年に実施した発掘調査や保存・修復等に関わるフィールドワークの報告が行われる予定です[14]。

今後の展望

有名なエジプト考古学者ザヒ・ハワスは、2025年には「ネフェルティティ女王のミイラの発見、ツタンカーメンの死因の発表、サッカラでの新ピラミッドの発見、そしてルクソールでの新たな発見が1月8日に発表される」と予測しています[10]。

また、大エジプト博物館の開館も2025年4月から6月の間に予定されており、ハワスは「2025年は世界をエジプトに引き寄せる年になる」と述べています[10]。

結論

2025年現在のエジプト考古学研究は、最新技術の導入による非破壊調査の発展、国際的な共同研究の拡大、そして古代エジプト人の日常生活や埋葬習慣に関する新たな知見の獲得と展示を通じた一般への還元という方向性を示しています。特に日本の研究チームによる貢献は国際的にも認められており、今後も継続的な調査と研究成果の発表が期待されます。

ピラミッドやファラオの墓だけでなく、一般の人々の生活や埋葬習慣、宗教観に焦点を当てた研究が増えており、古代エジプト文明をより多角的に理解する動きが強まっています。大エジプト博物館の開館と新たな考古学的発見が予測される2025年は、エジプト考古学にとって画期的な年となる可能性があります。

ソース
[1] 【早稲田大学歴史館】企画展 古代エジプトの生活 ~早大隊の発掘 … https://www.waseda.jp/culture/news/2025/03/21/30309/
[2] クフ王の大ピラミッド近くの「空白地帯」地下に遺構を新発見 … https://artnewsjapan.com/article/2282
[3] 19H01337 研究成果報告書 – KAKEN https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-19H01337/19H01337seika.pdf
[4] Archaeological Discoveries at Saqqara in January 2025 https://www.vanessachamma.com/post/archaeological-discoveries-at-saqqara-in-january-2025
[5] Delta Survey Project – Durham University https://www.durham.ac.uk/departments/academic/archaeology/archaeology-news/delta-survey-project/
[6] 古代エジプト新王国時代のメンフィス編年の構築とテーベとの比較 … https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K20519/
[7] 東日本国際大学エジプト考古学研究所 – https://egypt-archaeology.jp
[8] いまエジプトがアツい! エジプトの至宝が日本に集結、2025年開催 … https://marieclairejapon.com/culture/229874/
[9] エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常 … https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/05/post-104519.php
[10] Zahi Hawass anticipates a slew of major archaeological findings for … https://www.egyptindependent.com/zahi-hawass-anticipates-a-slew-of-major-archaeological-findings-for-2025/
[11] 古代エジプト新王国時代のメンフィス編年の構築とテーベとの比較 … https://researchmap.jp/read0030025/research_projects/35680612?year=2022&sort=newest&start=1&limit=20&frame_id=44127
[12] 筑波大学西アジア文明研究センター研究会「一柱から二柱へ http://jswaa.org/2025%E5%B9%B41%E6%9C%8823%E6%97%A5%E9%96%8B%E5%82%AC%EF%BC%9A%E7%AD%91%E6%B3%A2%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E8%A5%BF%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E6%96%87%E6%98%8E%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF/
[13] Egypt to announce significant archaeological discovery in the … https://www.egyptindependent.com/egypt-to-announce-significant-archaeological-discovery-in-the-pyramids-area-in-2025/
[14] 2025年3月22日・23日開催:第32回 西アジア発掘調査報告会の発表 … http://jswaa.org/20250322-1/
[15] 西アジア発掘調査報告会報告集|日本西アジア考古学会 http://jswaa.org/publications_all/pame/
[16] Delta Survey | EES – Egypt Exploration Society https://www.ees.ac.uk/delta-survey
[17] 1月, 2025 – 東日本国際大学エジプト考古学研究所 https://egypt-archaeology.jp/2025/01/
[18] 古代エジプトの王墓発見、ツタンカーメン以来約100年ぶり – BBC https://www.bbc.com/japanese/articles/clyn7gl79rno
[19] [PDF] エジプト ダハシュール北遺跡調査報告 -第 23 次発掘調査- http://www.egyptpro.sci.waseda.ac.jp/pdf%20files/JES23/1_dahshur23.pdf
[20] Tomb of Unknown Pharaoh Is Unearthed in Egypt https://www.nytimes.com/2025/03/27/world/africa/egypt-tomb-pharaoh-abydos.html
[21] Archaeological Survey at Philadelphia, Fayyum (Egypt) https://www.oeaw.ac.at/oeai/forschung/altertumswissenschaften/antike-rechtsgeschichte-und-papyrologie/archaeological-survey-at-philadelphia
[22] 2025 – 東日本国際大学エジプト考古学研究所 https://egypt-archaeology.jp/2025/
[23] “古代エジプト像”大発見も…考古学者“まさかの事態”批判殺到 https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/900019292.html
[24] 早稲田大学エジプト学研究所 https://www.egyptpro.sci.waseda.ac.jp/publication%20be.html
[25] Tomb of unidentified ancient Egyptian pharaoh discovered – Reuters https://www.reuters.com/science/tomb-unidentified-ancient-egyptian-pharaoh-discovered-2025-03-27/
[26] Egyptian Archaeology | EES – Egypt Exploration Society https://www.ees.ac.uk/our-cause/publications/egyptian-archaeology.html
[27] 【第12回】エジプト考古学者・大城道則さんに聞く、5年先の旅の … https://www.tourism.jp/tourism-database/viewpoint/2025/02/5years-ahead-12/
[28] エジプト学研究所 – 早稲田大学 総合研究機構 https://www.waseda.jp/inst/cro/institutes-list/institute-of-egyptology
[29] New Open Access Journal: Studies in Egyptian Archaeology and … http://ancientworldonline.blogspot.com/2025/01/new-open-access-journal-studies-in.html
[30] 3月, 2025 – 東日本国際大学エジプト考古学研究所 https://egypt-archaeology.jp/2025/03/
[31] 「一般社団法人 日本エジプト考古学研究所」のHPとそこに至るまで https://ameblo.jp/sheapi/entry-12884690905.html
[32] The Journal of Egyptian Archaeology – Sage Journals https://journals.sagepub.com/home/ega
[33] 金沢大学 古代文明・文化資源学研究所 https://isac.w3.kanazawa-u.ac.jp
[34] 私が総長を務める東日本国際大学のエジプト考古学研究所が発行し … https://www.instagram.com/sakujiyoshimura/p/C900ltIS_Rg/
[35] Volume 2025 – Studies in Egyptian Archaeology and Science https://seas.andromedapublisher.org/index.php/SEAS/issue/current
[36] 河江 肖剰 – 研究者総覧 – 名古屋大学 https://profs.provost.nagoya-u.ac.jp/view/html/100010244_ja.html
[37] 吉村作治エジプト調査隊、存続の危機! – クラウドファン … – Readyfor https://readyfor.jp/projects/sakuji2024