2025年4月現在、陶磁器ファンや陶芸愛好家にとって価値ある最新の書籍情報をこの記事では読者の皆様にお届けします。伝統工芸としての奥深さと現代的な表現の広がりを感じられる陶磁器の世界を、様々な角度から紹介する良書が続々と出版されています。ぜひご覧ください。
2025年注目の新刊・最新書籍
近代日本の陶磁器業―産業発展と生産組織の複層性―

本書は、その美しさを称える芸術書ではありません。むしろ、陶磁器を「産業」として捉え、その構造と発展の実態に迫る本格的な産業史研究です。
舞台は明治から昭和初期にかけての日本。瀬戸や有田、京都、名古屋、東濃といった主要産地を対象に、輸出産業としての成長、技術革新、そして小規模経営から大企業化までの複雑な経済的プロセスが、膨大な資料と実証データに基づいて描かれます。
本書の大きな特長は、「在来産業」という従来の枠組みに留まらず、陶磁器産業の内部に存在した多様な生産組織と経営形態の“複層性”に光を当てている点。問屋、窯屋、職人、大資本家まで、登場人物の層も厚く、それぞれが近代化の波にどう向き合い、どのように変化したのかが丹念に語られます。
たとえば、ウィーン万博にあわせて設立された「起立工商会社」の盛衰や、森村組と日本陶器(現・ノリタケ)の誕生と垂直統合の試み、そして各地域での技術導入や労働構造の変化など、産業としての陶磁器の動態が、地に足の着いた筆致で描き出されていきます。
著者・宮地英敏氏は経済史の専門家であり、地元・多治見の出身という視点も相まって、ローカルな視野とグローバルな文脈が見事に交差しています。
美術や工芸への関心を持つ方だけでなく、近代日本の経済や産業構造の変遷に興味のある読者にとっても、本書は読み応え十分な一冊となるでしょう。
やきものの背後にある「もうひとつの歴史」を知りたい人に、強くおすすめしたい学術的傑作です。
『美術手帖 2025年1月号「現代の陶芸」』

かつて「伝統工芸」の枠で語られていた陶芸は、いまや現代アートの最前線へとその舞台を広げている。2025年最初の『美術手帖』は、まさにこの「現代の陶芸」の今とこれからを鋭く掘り下げた特集号だ。
巻頭では、陶芸という技法に出自を持ちながら、その枠を超えて表現を展開する6名のアーティストに焦点を当てている。桑田卓郎、安永正臣、川端健太郎、西條茜といった作家たちは、いずれも国際的なギャラリーで活動の幅を広げており、日本発の陶芸表現がいかにグローバルに評価されているかを実感させる。また、2023年のロエベ財団クラフトプライズで大賞を受賞した稲崎栄利子、長年にわたり独自の道を歩み続ける植松永次など、多様なキャリアと視点を持つ作家たちの取り組みを通して、陶芸というメディアがもつ“造形”を超えた表現の必然性が浮かび上がってくる。
さらに、戦後の前衛陶芸家集団・走泥社をはじめ、伝統の枠を壊しながら新たな陶芸の地平を切り拓いてきた作品群をひもとく「現代陶芸史の系譜」、今注目すべき現代陶芸作家15名の紹介、清水穣や川北裕子による論考など、読み応えたっぷりの内容が続く。
陶芸が単なる素材や造形技術ではなく、記憶・身体・社会と深く結びついた現代的な表現手段であることを、この特集は力強く示している。特に、美術や工芸に興味のある人だけでなく、「今、アートが社会とどう向き合っているのか」を知りたい読者にも大きな示唆を与える一冊だ。
現代陶芸というジャンルの可能性を、これほど多角的に照らした雑誌特集は稀であり、陶芸の“今”を知るための決定版的な内容となっている。
『九州LOVEWalker2025春 ウォーカームック』

有田、唐津、波佐見――名窯の産地がひしめく九州は、まさに“焼き物王国”。本書は、そんな九州の器の魅力をぎゅっと詰め込んだ、陶器好きにはたまらない一冊です。
特に注目したいのは、毎年ゴールデンウィークに開催され、100万人以上が訪れるという**「有田陶器市」**の特集。現地の人が語る“賢い回り方”や、お気に入りの器に出会うコツ、さらには若手作家による注目作品まで、有田の魅力を徹底的に掘り下げています。
その一方で、九州各地で開催される年間25もの陶器市を一挙紹介しているのも大きな見どころ。カレンダーを片手に、器をめぐる旅の計画を立てたくなるはずです。
雑貨店での器選びにも焦点を当て、センスのいいショップスタッフへのインタビューを通じて、“暮らしのなかで器を楽しむ”視点を提案してくれるのもうれしいポイント。さらに、実際に料理が盛られた器を見て購入できるカフェの紹介や、福岡の人気雑貨店5軒が明かす器選びのこだわりなど、器選びをもっと身近に感じられる情報が充実しています。
巻頭では、春のお出かけスポットとして新名所「ONE FUKUOKA BILDG.」や「リバーウォーク北九州」などもピックアップ。器だけでなく、春の九州を丸ごと楽しめる一冊になっています。
日々の暮らしに彩りを添える“お気に入りの器”と出会いたい人へ。
九州の焼き物文化の奥深さと温もりに触れながら、心豊かな旅を始めてみませんか?
入門者からマニアまで楽しめる技法書
基礎からわかるはじめての陶芸

2手を動かして、形にして、火に入れて焼き上げる。土という素材と向き合いながら、自分だけの器やオブジェを作る陶芸の魅力を、ゼロから丁寧に教えてくれる入門書がこの一冊です。
成形の基本となる手びねりや電動ロクロの扱いから、釉薬の選び方・かけ方、絵付けの技法、焼成まで、陶芸の工程を順を追って紹介。写真とイラストをふんだんに使っているため、まったくの初心者でもすぐにイメージをつかむことができます。
また、初心者が陥りやすい失敗とその解決法を具体的に解説してくれているのもこの本の大きな魅力。たとえば、成形中に形が崩れてしまうとき、乾燥でヒビが入ってしまうとき、釉薬の発色が思い通りにいかないとき──そんな場面ごとの“どうしたらいい?”に寄り添ってくれます。
巻末には、窯元や釉薬に関する基本的な情報も掲載されており、自宅で楽しむ人にも、教室に通いたい人にも役立つ知識がぎゅっと詰まっています。
土の手触りとともに始まる、あなただけの“やきもの”の世界。
趣味として陶芸を始めたいすべての人に、自信を持っておすすめできる一冊です。
陶芸の釉薬 336の色彩帖: 21色の釉薬を土と焼き方と重ね掛けで彩り豊かに楽しむ

陶芸の魅力のひとつに、“釉薬(ゆうやく)”が生み出す無限の色彩があります。土の種類、焼き方、そして釉薬の重ね方によって表情を変えるその色は、まさに偶然と必然が織りなす美の世界。本書はそんな釉薬の魅力に真正面から向き合った、ビジュアル重視の色見本帳です。
登場するのは21色の釉薬。それらを赤土・白土という2種類の粘土に施し、酸化焼成と還元焼成という異なる焼き方で焼き上げた結果を、カフェオレボウルやプレートといった具体的な器のかたちで紹介。さらに一部では釉薬を重ね掛けした例も掲載され、同じ釉薬でも焼成条件や土の違いによってどれほど色味が変わるのかが一目でわかる構成になっています。
特筆すべきは、その色の選び方に“女性目線”を取り入れている点。柔らかく透明感のある色合い、淡く上品なニュアンスカラーなど、女性陶芸家に人気の釉薬を中心に紹介しているため、日常使いの器づくりやクラフト作品の色彩計画にも役立ちます。
陶芸の基本や用語解説も丁寧に添えられており、釉薬にまだ詳しくない初心者から、創作の幅を広げたい経験者まで幅広く活用できる内容です。さらに、釉薬を使った作家作品も紹介されており、色見本を「使って終わり」にせず、創作のヒントへとつなげてくれます。
釉薬の奥深さと面白さを、手に取って感じられる一冊。
陶芸における「色」という魔法に心を奪われたあなたに、ぜひ手にしてほしい美しいガイドブックです。
やきものの科学: 粘土・焼成・釉薬の基礎と化学的メカニズムを知る

「もっと安定して釉薬を出したい」「この失敗の原因を知りたい」──そんな陶芸家や愛好者の悩みに、化学の視点から応える一冊です。陶芸の世界では“経験と勘”が頼りにされがちですが、本書は「なぜこうなるのか?」という問いに理論で答えてくれる、実践派のための科学的入門書です。
書き出しは、「やきものとは何か」というシンプルで根源的な問いから始まります。やきものの原料となる粘土の地学的な成り立ちや性質に触れながら、その性質がどのように作陶に影響を及ぼすのかを丁寧に解説。続く章では、粘土の乾燥・焼成によって何が起きるのか、釉薬がなぜ溶けて色づくのか、そのメカニズムを化学の目で明らかにしていきます。
特に釉薬に関しては、三角座標やゼーゲル式といった理論的な調合方法を豊富な図解とともに紹介。自作の釉薬を安定させたい、作品ごとに狙った色や質感を出したいという人には、まさに頼れる指南書です。また、貫入やピンホールといったトラブルの原因と防止法にも踏み込んでおり、陶芸現場で頻発する問題に対して**「なぜ起きるのか、どう対処すべきか」が体系的に学べる内容**となっています。
著者の樋口わかな氏は、国内外で陶芸指導に携わってきたベテラン。作品制作と教育現場の双方に根ざした知見を活かし、難しい理論も平易な言葉でわかりやすく伝えています。
やきものづくりを、より自由に、そして論理的に深めたい人へ。
「知ることで、失敗が減り、作品の幅が広がる」──そんな体験ができる、陶芸における科学のバイブル的存在です。
歴史・鑑賞のための書籍
『増補新装 カラー版 日本やきもの史』

日本の陶磁器は、縄文土器に始まり、時代ごとに形・色・技術・思想を変えながら今日まで受け継がれてきました。本書は、そうした日本やきものの長い歴史を、豊富なビジュアルとともに体系的に学べる定番の一冊です。
1998年に初版が刊行されて以来、美術史・陶芸史の入門書として多くの読者に支持されてきた本書。今回の新装版では、平成以降の現代陶芸の動向に触れる新章が追加され、江戸から現代までの章にも加筆修正が加えられています。現代作家による新しい表現や、前衛と伝統の交錯にも目を向けながら、やきものの“今”に至るまでをしっかりとフォローしている点が、大きな魅力です。
なにより目を引くのは、290点にも及ぶオールカラーの図版。縄文の火焔土器から、平安・鎌倉の青磁、桃山の唐津・信楽、そして現代工芸まで、時代とともに移り変わる「焼きもののかたちと美意識」が、色鮮やかに並びます。主要な窯場の地図や、用語解説、年表なども充実しており、陶磁器鑑賞の“読み解き力”を育ててくれるガイドブックとしても秀逸です。
単なる工芸品の歴史にとどまらず、やきものを通して日本の文化や社会の変遷をたどる、知的な楽しみを与えてくれる一冊。これから陶磁器を深く知りたい人、作り手や収集家、美術館での展示をより豊かに味わいたい人には、まさに必携の内容といえるでしょう。
“日本のやきものとは何か”を知る最初の一冊として。
そして、長く手元に置きたい定番の一冊として──心からおすすめします。
あたらしい洋食器の教科書 美術様式と世界史から楽しくわかる陶磁器の世界

優美な曲線、繊細な絵付け、名窯の銘が刻まれたカップやプレート――洋食器には、ひと目で心を奪われる魅力があります。でも、その美しさの裏側に、王侯貴族の愛や野望、激動の時代をくぐり抜けてきた物語が詰まっていることを、どれだけの人が知っているでしょうか。
本書は、マイセンやウェッジウッド、セーヴル、ロイヤルクラウンダービー、大倉陶園など、誰もが一度は耳にしたことのある名ブランドを入り口に、洋食器の世界を美術史と世界史の視点から解き明かしていく“まったく新しい陶磁器の入門書”です。
やきものの基本や器の種類、デザインの解説といった基礎知識から始まり、ドイツ・フランス・イギリス・イタリアなど国別に代表的なブランドとその歴史、創業者や王族との関わりまでが豊富な写真とともに紹介されています。マリー・アントワネットがこよなく愛したセーヴル窯、ナポレオン戦争がもたらしたデザインの革新、第一次世界大戦による製造拠点の変化など、洋食器はまさに「時代を映す器」であることがわかってきます。
また、文学作品や映画に登場する洋食器、名画に描かれたテーブルウェアなど、文化と器の意外なつながりに触れられるコラムも多数収録。「見る」「知る」「使う」ことの喜びを、知識と感性の両面から楽しめる構成となっています。
ビジュアル面でも非常に美しく、ブランドごとの象徴的な食器や美術様式を活かしたデザインが、見開きごとに鮮やかに紹介されており、読み物としてだけでなく、ページをめくる楽しみにも満ちた一冊です。
ただ憧れるだけだった洋食器が、もっと身近に、もっと深く味わえるようになる。
美術や歴史、器そのものに関心のある方はもちろん、「自宅で好きな器を使う」ことに喜びを感じるすべての人におすすめしたい、知的で華やかなガイドブックです。
図説 英国 美しい陶磁器の世界: イギリス王室の御用達

イギリスと聞いて思い浮かべるのは、紅茶とともに供される優雅なティータイム。その背景には、ウェッジウッドやミントン、ウースター、ドルトンといった名だたる窯が手がけた、美しく繊細な陶磁器の文化があります。本書は、そんな英国陶磁器の世界を、王室との関わりとともに紹介するビジュアル満載のガイドブックです。
ロイヤルワラント(英国王室御用達)の歴史を皮切りに、各章では代表的な窯ごとの物語が展開されます。ダービーの地に根を張り、職人の技巧で名声を築いたダービー窯。時代の流れのなかで独自のスタイルを磨き続けたウースター窯。さらには、実業家としても評価されるジョサイア・ウェッジウッドが起こしたウェッジウッド窯など、それぞれの窯が英国社会や王室文化にどう関わってきたかが、一つ一つの器とともに語られていきます。
写真や図版も非常に美しく、ヴィクトリア女王が愛したミントンの装飾皿や、ロンドンの公衆衛生を支えたドルトンの陶製品など、陶磁器が果たした社会的役割にも光が当てられています。見た目の美しさだけでなく、イギリスの歴史や産業の一端を知る「文化資料」としての陶磁器の奥深さを感じさせてくれる内容です。
巻末にはリッジウェイ、コールポート、エインズレイなど、他の英国窯についての情報や陶磁器年表も収録されており、初心者からマニアまで幅広く楽しめるつくりになっています。
紅茶文化とともに育まれた英国の陶磁器は、まさに王室の歴史を映す鏡。「美しい器」を手がかりに、気品と伝統に彩られた英国のもうひとつの物語を辿ることができる、知的で優雅な一冊です。
専門誌と定期刊行物
『炎芸術』(陶芸専門誌)

日本の陶芸界の動向や作家紹介、作品解説などを掲載する専門性の高い雑誌として知られています。
茶碗のなかに“浪漫”を見いだすとすれば、それは井戸茶碗ほどふさわしい器はないでしょう。朝鮮半島で焼かれ、日本に渡り、茶の湯文化の中で「茶碗の最高峰」として愛されてきたこの器は、その来歴から名の由来、用途までもが謎に包まれた存在です。『炎芸術』春号の特集では、その曖昧で豊かな“余白”にこそ魅力が宿る、井戸茶碗の世界を掘り下げます。
巻頭では、国宝《喜左衛門》をはじめとした伝世の名品を紹介しつつ、韓国での窯跡調査など、学術的な視点からも井戸の由来に迫ります。そして、その神秘に惹かれ、現代において井戸を「自分の手で再び生み出そう」とする陶芸家たちの取り組みに焦点が当てられます。
たとえば、長崎・対馬に生まれ、30年以上にわたり韓国の古窯跡を巡る武末日臣氏は、土や陶片、村人との交流を通して井戸茶碗の本質を探り、「ケンチャナヨ(気にしない)」という精神にその美意識を見出しています。対する大前悟氏は、淡路島の粘土に井戸の可能性を感じ取り、移住を決断。古典を学びながら、瑞々しい原初的なやきものを追求しています。
このほか、井戸茶碗の見所を紹介するガイドや、市場での購入方法、茶会やギャラリーでの楽しみ方まで、見て・知って・使って楽しむ“今の井戸”の姿が多角的に紹介されています。
本号ではさらに、井戸茶碗に通じる美意識をもつ現代作家や展覧会情報、工芸技法、平成・令和の陶芸史の流れなど、充実した読み応えの特集外記事も満載です。
井戸茶碗の“何かを語りきれない魅力”に惹かれる人すべてに贈る一冊。
手にするほどに、思索と創作の種をまいてくれるような、不思議な器との対話が、ここから始まります。


『目の眼』(古美術専門誌)

約半世紀にわたり骨董・古美術に特化してきた老舗雑誌『目の眼』。その2025年2・3月号では、「織部焼」に光を当てた特集が組まれています。織部といえば、戦国時代末期から江戸初期にかけて活躍した茶人・古田織部にちなんで名づけられた焼き物。その歪みをあえて取り入れた形、斬新な文様や色使いは、まさに“美の革新”ともいえる存在でした。
本特集では、その織部焼がどのように誕生し、400年を超えてなお人々を惹きつけ続けているのか、その魅力を深掘りします。現存する茶道具や器、陶片などを通して、織部の造形美や用途、そして茶の湯との密接な関係が丁寧に紹介されており、古美術としての価値だけでなく、現代の暮らしのなかで「使いこなす」楽しみ方にも踏み込んでいるのが大きなポイントです。
また、読者は“織部”という名前に象徴される、日本人の美意識の変遷にも触れることができます。中世から近世へ、そして令和のいまへ──「織部」は時代の感性を映し出す鏡であり続けているのです。
手にとって、使って、眺めて、語りたくなるやきもの。
“茶の湯”を起点に花開いた日本の造形文化の奥深さを、改めて実感できる特集です。


陶芸家・専門家のおすすめ書籍:林寧彦氏の書籍
陶芸は生きがいになる (新潮新書)

「趣味がないまま、人生が過ぎていくのが不安だった」──そんな思いを抱えていた著者が、ふと足を踏み入れた陶芸教室。そこから始まった小さな挑戦が、やがて生き方そのものを変えていきます。本書は、陶芸をまったくの未経験から始めた著者が、ついにはプロの陶芸家になるまでを描いた“リアルな陶芸のはじめ方”エッセイです。
土に触れ、ロクロを回し、釉薬を調合し、焼き上がった器を手に取る──そんなひとつひとつの工程が、ただの「作業」ではなく、自分自身と向き合う大切な時間へと変わっていく様子が、生き生きと語られます。転勤でマンションの一室を工房に変え、唐津へ「自称・弟子入り」し、県展や公募展に出品するなど、少しずつ世界を広げていく姿には、読む者の背中をそっと押す力があります。
また、作品が初めて売れた時の喜びや、陶芸ノートに描いたスケッチが習慣となったこと、やきものが人と人を結びつけてくれる不思議な縁など、“趣味”を超えた人生の実感が、軽やかな語り口で綴られています。
後半では、「失敗しない陶芸教室の選び方」や「絵心がなくても大丈夫?」といった実践的なアドバイスも収録されており、これから陶芸を始めてみたい人にもぴったりの内容。なにより、「作ってみたい」という気持ちさえあれば、年齢や環境は関係ない──そんなメッセージが温かく伝わってきます。
土を触ることで、心がほぐれる。作ることで、自分を知る。
陶芸という“道”に出会いたいすべての人に贈る、小さくて深い人生の指南書です。
陶芸家Hのできるまで
華やかな広告業界、博報堂でCMプランナーとして働いていた著者が、土に魅せられて陶芸家に転身する――そんな“まさかの選択”を貫いた実話が、この一冊には詰まっています。
著者・林寧彦氏は、趣味で始めた陶芸が思いがけず深まっていくうちに、日本伝統工芸展に入選するまでに腕を上げ、50歳で会社を早期退職。そして“陶芸家H”として、自然と向き合いながら生きる新しい日々をスタートさせました。
この本は、彼が**「サラリーマン」から「陶芸家」になるまでの過程を、驚くほど率直に、時にユーモラスに綴った人生の記録**です。ただの自己実現物語ではなく、「やりたいことはあるけれど、踏み出せない」と感じている多くの人に向けての静かなエールが込められています。
著者は、陶芸がもたらす達成感や癒やしだけでなく、「年収は下がるし、不安もあった」とリアルな現実も包み隠さず語ります。そのうえで、それでもなお“自分の人生を自分で選ぶ”ことの楽しさと深さを、やさしい筆致で伝えてくれます。
巻末には陶芸初心者のための簡単なガイドも収録されており、「ちょっとやってみたいかも」と思った読者への第一歩もサポートしてくれるつくりになっています。
陶芸という表現を通して、自分らしい生き方にたどり着いたひとりの男の物語。
キャリアに悩んでいる人、趣味を仕事にできるか模索している人、新しい生き方を模索しているすべての人に、そっと寄り添ってくれるような一冊です。
まとめ:自分に合った陶磁器の本を選ぶポイント

陶磁器に関する書籍は、入門書から学術専門書まで幅広く出版されています。自分の目的や知識レベルに合わせて選ぶことが重要です。
2025年現在、国内外で陶芸への関心が再び高まりを見せており、それに呼応するかのように関連書籍もますます多様化しています。伝統の継承と現代的表現、職人技と芸術、民俗と産業といった多層的な交錯点を持つ陶磁器の世界は、読むことからでも深く味わうことができます。
目的に応じた一冊との出会いが、やきものの魅力をさらに引き出す旅の第一歩となるでしょう。