アテルイ(阿弖流為)、古代東北(Tohoku)の地を舞台に繰り広げられた英雄譚の中心人物。朝廷の軍勢に抗し続けた蝦夷(Emishi)の領袖として、彼の存在は日本史の中でも独特の位置を占めています。アテルイの生涯は、悲劇と伝説に彩られ、時には「悪」のレッテルを貼られ、時には民を守る「正義」の象徴として語り継がれてきました。その複雑な人物像は、多くの研究者や作家によって様々な角度から探求され、フィクションとノンフィクションの両面で数多くの作品が生み出されています。
このブログ記事では、アテルイに関するオススメ書籍を紹介します。古代の英雄に光を当て、歴史の闇に葬られた真実を探るこれらの作品は、アテルイが持つ多面的な魅力を解き明かし、読者に彼の生きた時代の息吹を伝えます。歴史的評伝から現代の創作に至るまで、アテルイを題材にした書籍は、古代東北の豊かな文化と複雑な政治状況を背景に、英雄の哲学、抵抗と和解の物語を紐解いています。読む者を古代の風景へと誘い、今にも息づく英雄アテルイの魂に触れさせてくれるこれらの書籍を、ぜひあなたの読書リストに加えてみてください。
アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士
『アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士』は、おおぎやなぎちかと江頭大樹によって共著され、2021年1月26日にくもん出版から発売されました。この書籍は、奈良時代から平安時代の初期にかけての日本の歴史、特に朝廷(Imperial Court)が北進していく過程でのエミシ(Emishi)との関係を描いています。エミシは、現在の東北地方に住んでいたとされる人々で、彼らの中でも特に著名な勇士がアテルイ(Aterui)です。彼は朝廷軍を率いる坂上田村麻呂(Sakanoue no Tamuramaro)と激しい駆け引きを展開し、エミシの未来をかけた戦いを繰り広げました。
本書は、ただの歴史書ではなく、エミシと朝廷の間で繰り広げられた複雑な関係性や、両者の未来をかけた戦いを、物語形式で描いています。読者は、アテルイと坂上田村麻呂という二人の強烈なキャラクターを通じて、当時の日本の社会や文化、政治的背景を深く理解することができるでしょう。
おおぎやなぎちかは秋田県出身で、岩手と東京を行き来しながら創作活動を行っている作家です。彼女は、児童文学の分野で数々の賞を受賞しており、その創作活動は多岐に渡ります。一方、江頭大樹は千葉県出身で、早稲田大学卒業後、アニメ制作会社での勤務を経てフリーランスのイラストレーターとして活動を開始しました。彼の作品は、広告や挿絵、漫画、ゲームなど、多方面で見ることができます。
『アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士』では、アテルイと坂上田村麻呂の間で交わされた未来をかけた駆け引きを、生き生きとした描写で読者に伝えています。「ここはわれわれのもの」と主張するエミシたちの雄叫び、そして「みんなが力を合わせなければならない。エミシの未来のために」という強い決意が、この時代のエミシの人々の生活や文化、そして彼らの朝廷に対する抵抗の精神を色濃く反映しています。
この書籍は、歴史に興味がある読者はもちろん、日本の古代史における地域間の対立や文化の交流について理解を深めたい人々にとって、貴重な資料となるでしょう。アテルイと坂上田村麻呂の物語を通して、読者は古代日本の歴史の一面を新たな視点から見ることができるのです。
アテルイと東北古代史
『アテルイと東北古代史』は、熊谷公男(くまがい きみお、Kumagai Kimio)によって編集され、2016年7月25日に高志書院から発売された学術書です。熊谷公男は1949年生まれで、東北学院大学文学部で教授職を務める学者であり、『古代の蝦夷と城柵』(Ancient Ezo and Fortified Sites, 吉川弘文館)、『大王から天皇へ』(From Great King to Emperor, 講談社)、『蝦夷の地と古代国家』(Ezo Land and the Ancient State, 山川出版社)などの著書を持つ、古代東北史および蝦夷(Ezo)に関する研究の第一人者です。
本書『アテルイと東北古代史』では、律令国家(Ritsuryo State)の東北(Tohoku)侵攻に対して直接抵抗した古代蝦夷の族長、アテルイ(Aterui)に焦点を当てています。アテルイは小説、映画、シネマ歌舞伎(Cinema Kabuki)の主役としても知られていますが、彼の実像は長らく謎に包まれていました。本書は、文献学や考古学の観点からアテルイの歴史像を詳細に検証し、彼の生涯とその時代の真実に迫る試みを行っています。
熊谷公男をはじめとする古代東北史の専門家が参加していることから、本書はアテルイの人物像だけでなく、彼が生きた時代の社会的、政治的背景にも深く切り込んでいます。律令国家の東北地方への進出という歴史的事象を軸に、地域住民と中央政権との関係、蝦夷と呼ばれた人々の生活や文化、そして彼らが抱えていた課題や抵抗の形を探ることで、今まで見過ごされがちだった古代日本の多様性に光を当てています。
本書の特徴は、単にアテルイという人物の歴史的評価を再検討するだけでなく、彼の生きた古代東北の社会を包括的に理解するための手がかりを提供している点にあります。そのため、古代日本史における地域間の交流や文化の相互作用、中央と地方の力関係の再考といった、幅広いテーマについての議論を促しています。
総じて、『アテルイと東北古代史』は、アテルイという人物だけでなく、彼が象徴する古代東北地方の歴史と文化に新たな光を当てることで、日本史の理解を一層深めることができる貴重な資料です。これらの理由から、日本史、特に古代史に関心がある読者だけでなく、文化交流や地域間の関係性に興味を持つ研究者にとっても非常に価値のある一冊と言えるでしょう。
水壁 アテルイを継ぐ男 (講談社文庫)
『水壁 アテルイを継ぐ男』は、日本の著名な作家、高橋克彦による講談社文庫から2020年7月15日に発売された歴史大河小説です。この作品は、高橋克彦のライフワークである東北地方(Tohoku region)を舞台にした大河小説シリーズの最新刊にあたり、東北の英雄・アテルイ(Aterui)の血を引く若者、天日子(Amaterasu)の物語を描いています。天日子は、朝廷(Imperial Court)による厳しい扱いに苦しむ民を救うために立ち上がり、彼の志に共感する力ある者たちが集まってきます。朝廷との圧倒的な数の差を知略(Strategy and Tactics)で克服し、不利な状況でも勇敢に立ち向かう蝦夷(Emishi)たちの姿が描かれています。
高橋克彦(Takahashi Katsuhiko)は、1947年岩手県(Iwate Prefecture)生まれの作家で、早稲田大学(Waseda University)を卒業後、多数の賞を受賞しています。彼の作品は、歴史的な背景を持つものが多く、特に東北地方の歴史や文化に深い洞察を与えるものがあります。『水壁 アテルイを継ぐ男』は、『風の陣』、『火怨 北の燿星アテルイ』に続くシリーズであり、後に『炎立つ』、『天を衝く』と続きます。
この作品は、アテルイの血を引く天日子という若者が、エミシの民を朝廷の圧政から救うために、どのようにして立ち上がり、困難に直面しながらも仲間たちと共に戦いを挑むかを描いています。この物語は、ただの歴史小説以上のものであり、読者に蝦夷たちの気高い姿と、彼らが直面した挑戦に対する勇敢な対応を深く感じさせます。また、時代背景や登場人物の心理描写においても高い評価を受けており、読む者をその時代へと引き込む力を持っています。
『水壁 アテルイを継ぐ男』は、歴史に興味がある読者だけでなく、英雄的な人物の生きざまや、義理と人情、知略を駆使した戦いに魅了される人々にとっても、非常に魅力的な作品です。高橋克彦の洗練された筆致と深い歴史理解に基づくこの小説は、東北の英雄アテルイの遺産を継ぐ男の物語を通じて、読者に強烈な印象を与えることでしょう。
阿弖流為: 夷俘と号すること莫かるべし
『阿弖流為: 夷俘と号すること莫かるべし』は、樋口知志著、ミネルヴァ書房から2013年10月10日に発売された、ミネルヴァ日本評伝選の一冊です。この作品は、奈良時代末期から平安時代初期にかけての陸奥国胆沢地方を舞台に、蝦夷(Emishi)族長である阿弖流為(Aterui)の生涯と彼の時代を詳細に追っています。樋口知志は、2013年8月時点で岩手大学の教授であり、本書では阿弖流為の初の評伝として、彼の平和を求める姿勢と、国家側社会との共生を目指した生涯を明らかにしています。
本書の特徴は、蝦夷の英雄・阿弖流為に関する記録が極めて少ない中、多様な資料を基にして、彼の姿を鮮やかに描き出している点です。また、2013年1月・3月にNHKで放映されたドラマ「火怨・北の英雄 アテルイ伝」によって、阿弖流為に対する関心が高まっている時期に発表されました。
書籍は以下の章構成で展開されます:
- 第一章「蝦夷の世界」では、蝦夷の原像と多賀城以前の蝦夷政策を探ります。
- 第二章「生い立ち」では、阿弖流為の年譜作成の試み、故郷、大墓公一族について論じます。
- 第三章「平和の翳り」から第九章「平和の恢復」まで、阿弖流為とその時代が直面した政治的、社会的な変遷や戦争、平和への道筋が詳細に語られます。
樋口教授は、阿弖流為が征夷の時代を終結させるために、国家側社会との平和・共生のあり方を模索し続けたその生涯の真実に迫ります。『阿弖流為: 夷俘と号すること莫かるべし』は、単なる歴史の記録を超えて、平和を愛した一人の英雄の姿を通じて、読者に深い思索を促す作品です。
この評伝は、阿弖流為の初の評伝としての価値に加え、現代においても重要な平和と共生のメッセージを提供します。蝦夷と国家との間で繰り広げられた戦い、政治情勢の変動、そして阿弖流為の最期と彼が遺したものについての深い洞察は、歴史に興味がある読者だけでなく、平和を愛するすべての人々にとって、必読の価値があるでしょう。
田村麻呂と阿弖流為―古代国家と東北
『田村麻呂と阿弖流為―古代国家と東北 (歴史文化セレクション)』は、新野直吉著、吉川弘文館から2007年10月1日に発売された歴史研究書です。この作品は、古代東北(Tohoku)の歴史における二人の英雄、坂上田村麻呂(Sakanoue no Tamuramaro)と阿弖流為(Aterui)の対比を通して、征夷(Conquest of the Emishi)と抵抗の歴史を新たな視点から解き明かします。
坂上田村麻呂は、征夷大将軍として名を馳せた人物であり、その軍事的功績は古代日本の東北地方における国家の権威を確立する上で重要な役割を果たしました。一方、阿弖流為は、東北地方を根拠地とする蝦夷(Emishi)の領袖であり、朝廷の支配に抵抗し続けた悲劇的な英雄です。
新野直吉は、この二人の人物とその時代背景を深く掘り下げ、古代国家と東北地方との関係を再評価します。書籍は以下のような構成で展開されます:
- 知られたる将軍、知られざる領袖:坂上田村麻呂と阿弖流為の背景に焦点を当て、特に田村麻呂の東北との関連性や阿弖流為の陸奥(Mutsu)における位置づけを解説します。
- 田村麻呂までの鎮守と征夷:律令制(Ritsuryo System)の展開と東北地方への影響、開拓と侵害の歴史をたどります。
- 阿弖流為までの順服と抵抗:蝦夷の中での順服と抵抗の歴史、良民への憧れと順化の矛盾、第二次抵抗の動きを探ります。
- 延暦の邂逅:田村麻呂と阿弖流為の直接的な対立、征夷が進まなかった背景、両者の関係性について詳述します。
新野直吉によるこの研究は、古代日本における中央政権と地方民族との複雑な関係、特に征夷大将軍としての坂上田村麻呂と、蝦夷の領袖としての阿弖流為の役割を再考し、その歴史的意義を新たな視点から評価しています。
本書は、古代日本の歴史、特に中央と地方の間のダイナミックな関係性に興味がある読者にとって、貴重な資料となるでしょう。『田村麻呂と阿弖流為―古代国家と東北』は、征夷と抵抗の歴史に新たな光を当てることで、古代東北史の理解を深めることができる作品です。
シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為 〈アテルイ〉
『シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為 〈アテルイ〉 』は、市川染五郎と中村勘九郎を主演に迎え、2015年7月に新橋演舞場で上演された歌舞伎公演の映画化作品です。この作品は、歌舞伎の伝統的な美しさと現代的な演出技術が融合した、新しい形のエンターテインメントを提供しています。シネマ歌舞伎として第24弾にあたるこの作品は、19台のカメラを使用して撮影され、舞台の躍動感と映像美を存分に捉えています。
作品の特徴は、400年の長い歴史を持つ歌舞伎が、時代の流行を取り入れ、常に革新を続けてきた精神を体現している点にあります。『歌舞伎NEXT 阿弖流為』では、蝦夷の長・阿弖流為として市川染五郎が、そして彼の対立者である坂上田村麻呂を中村勘九郎が演じています。この二人の英雄による激しい対決は、本作の大きな見どころの一つです。
また、中村七之助が演じる立烏帽子と鈴鹿の二役は、彼の演技力と美しさを際立たせる重要な役割を果たしています。これらの役割を含む豪華な歌舞伎俳優たちによる演技は、心揺さぶるドラマと勢い溢れるアクション、そして歌舞伎の様式美を見事に体現しています。
本作の脚本は中島かずきが手がけ、演出はいのうえひでのり(劇団☆新感線)が担当しています。二人のコラボレーションにより、歌舞伎という伝統的な舞台芸術に新しい息吹を吹き込むことに成功しています。躍動感溢れる動きと立ち回り、独創的な衣装と音楽など、いのうえひでのりならではの演出技術と歌舞伎の技法が見事に融合し、新感覚のエンターテインメントを生み出しています。
ストーリーは、国家統一を目論む大和朝廷に対抗する蝦夷の人々と、その中心人物である阿弖流為の戦いを描いています。阿弖流為と坂上田村麻呂の間で認め合う義と民を想う心情が、最終的に激しい決着へと導かれる過程が描かれています。
『シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為 〈アテルイ〉』は、歌舞伎の新たな可能性を探求し、伝統芸能を現代に伝える試みとして高い評価を受けています。この作品は、歌舞伎ファンはもちろん、新しい形のエンターテインメントを求める視聴者にとっても、見応えのある内容となっています。
まとめ
本ブログ記事では、古代東北の英雄であるアテルイ(阿弖流為)について、彼の生涯、伝説、そして彼が朝廷に対して示した抵抗の精神を探求するためのオススメ書籍を紹介しました。アテルイは、蝦夷(Emishi)の領袖として、古代日本の東北地方で朝廷の進出に抵抗し続けた人物です。彼の物語は、時には悲劇的な英雄として、時には正義を守る闘士として語られます。
紹介した書籍は、アテルイの人物像を様々な角度から捉え、彼の存在が古代東北史においていかに重要であったかを明らかにします。これらの作品には、歴史的評伝から現代の創作にいたるまで、アテルイを題材にした様々なアプローチが含まれています。読者はこれらの書籍を通じて、アテルイが直面した時代の背景、文化、そして複雑な政治状況を理解することができます。
また、本記事ではアテルイに関する書籍を紹介する際に、彼の英雄譚を現代に伝える重要性と、彼の物語が持つ普遍的な魅力についても触れました。アテルイの生きざまは、時代を超えて多くの人々に影響を与え、正義とは何か、抵抗の意味は何かについて考えさせられます。
この記事は、アテルイと彼の時代に興味を持つ読者にとって、彼の人物像を深く掘り下げるためのガイドとなることでしょう。紹介した書籍を通して、読者は古代東北の英雄アテルイの壮大な物語に触れ、彼の遺した遺産に新たな光を当てることができます。