動物考古学(Zooarchaeology)という分野で、全世界の研究者が継続的に直面してきた障壁があります。それは広範で高品質な標本コレクションへのアクセスです。発見された物を既存の標本と比較する能力は、正確な同定と分析にとって極めて重要です。しかし、地理的な制約、利用可能性、物理的な標本の取り扱いの繊細さなどから、全ての研究者や学生がこの機会を得ることは困難でした。それが今までの話です。ここで、動物考古学における革新的なプロジェクト、Bonifyをご紹介します。
世界クラスの動物骨格標本コレクションが、あなたがどこにいようとも指先で利用できると想像してみてください。スマートフォンやVRヘッドセットを使って、骨格を全ての角度から回転させ、ズームインして詳細を確認することができると想像してみてください。これこそがBonifyプロジェクトが動物考古学の分野にもたらす革新です。
フローニンゲン大学の協力を得て開発されたBonifyは、動物骨格標本の広範な3Dアーカイブをホストするデジタルプラットフォームです。厳密な3Dスキャンプロセスを通じて、コレクション内の各骨がデジタル化され、非常に詳細なインタラクティブモデルが作成され、仮想的にアクセスして操作することができます。この最先端の技術は、物理的な標本で可能なことをさらに超える、前例のないレベルの調査研究を可能にします。
“Bonify”プロジェクトの詳細
Bonifyは、動物の遺骸(骨)の同定に特化した科学的な3Dモデルや関連コンテンツへの開放的で無料のアクセスを提供する革新的なプロジェクトです。これは、大学や研究機関のリソースへのアクセスをしばしば制限する物理的な障壁を取り払うよう設計されています。この取り組みは、動物考古学者や考古学者が標本の収集とインタラクションする方法を変えており、これらのリソースへのリモートアクセスとインタラクティブな関与を促進しています。
Bonifyの主要な要素の一つは、Dr. Gary Nobles(ゲーリー・ノーブルズ博士)が率いる3Dスキャンキャンペーンです。このキャンペーンは、ヤギと羊の標本コレクションの詳細な3Dモデルを作成することに焦点を当てています。これらの3Dモデルは、Androidスマートフォンアプリケーションを通じてアクセス可能であり、ユーザーはこれらの標本と仮想環境で対話することができます。アプリケーションは、拡張現実(Augmented Reality)技術を使用して3Dモデルを現実世界に重ね合わせることで、これらの標本を研究するためのより没入感のある直感的な方法を提供します。
このような技術の使用は、革新的であるだけでなく、非常に実用的でもあります。世界中の研究者や学生がこれらの標本にアクセスできるようにすることで、研究能力を大幅に向上させ、貴重な教育ツールを提供します。
さらに、Bonifyは、物理的な標本コレクションの管理と維持に大きな影響を及ぼす可能性があります。デジタルリソースを活用することで、物理的なリソースが限られた機関でも、よりリソースが充実した機関と同じように高品質の標本コレクションにアクセスできるようになり、動物考古学の分野での包括性と多様性を促進します。
本質的に、Bonifyは、動物考古学の分野において、重要なリソースへのアクセスを拡大し、よりグローバルで相互接続された研究コミュニティの育成を促進するために、テクノロジーの力を活用するという、大きな前進を表しています。
Nobles, G., Çakirlar, C. & Svetachov, P. Bonify 1.0: evaluating virtual reference collections in teaching and research. Archaeol Anthropol Sci 11, 5705–5716 (2019). https://doi.org/10.1007/s12520-019-00898-1
“Bonify”の重要性とその動物考古学における役割
Bonify(ボニファイ)は、現代の動物考古学(Zooarchaeology)における重要な進展であり、その役割と意義は多岐にわたります。この革新的なツールは、動物考古学者や埋蔵文化財発掘担当者が動物の遺骸(骨)の同定に必要なリソースにアクセスするための新たな道を開いています。これは、物理的な標本コレクションへのアクセスが制限されている場合でも、関連する研究を行うことが可能になります。画期的ですね。
具体的には、Bonifyは、物理的な境界を超えて最先端のリソースへのアクセスを提供します。これは、動物考古学者や物質専門家が素材のコレクションと対話する方法を再考する機会を提供します。リモートアクセスとインタラクティブなエンゲージメントを通じて、これらのリソースを活用する新たな方法を開拓します。
さらに、Bonifyプロジェクトの中心的な要素として、Dr. Gary Nobles(ゲーリー・ノーブルズ博士)によるヤギと羊の標本コレクションの3Dスキャンキャンペーンが行われました。このスキャンは、Androidスマートフォンアプリ(Bonify)を介して、バーチャルにアクセス可能にされました。このアプリは、現実世界に3Dモデルを重ねて表示する拡張現実技術を利用しています。このようにして、研究者や学生は、世界中どこからでもこれらの重要な参照資料にアクセスすることが可能になります。これにより、教育と研究の両方で利用可能な新たなリソースが提供されることになります。
日本では奈文研の「3D Bone Atlas Database」
奈良文化財研究所埋蔵文化財センター環境考古学研究室が開発した「3D Bone Atlas Database」は、遺跡から出土する動物の骨を詳細に分析するための重要なリソースです。このデータベースは、遺跡から頻繁に出土する動物種の主要部位を三次元計測により立体的な骨格図譜として提示し、それをデータベース化しています。これにより、骨の形態の特徴をあらゆる角度から容易に把握できるようになりました。
本データベースの制作に当たり、松井章元埋蔵文化財センター長を中心に、遺跡から出土する動物の骨を分析するために必要不可欠な現生動物の骨格標本を精力的に収集しました。これらの標本は、『動物考古学の手引き』(奈良文化財研究所)や『動物考古学』(京都大学学術出版会)などの文献でも公開されています。
しかし、これらの資料では、骨格の複雑な形状を二次元の図譜で表現する限界があり、視覚的な情報が不足していました。また、大量の骨格標本や図譜を発掘調査現場に持ち込むことは困難でした。
こうした課題を解決するために、研究室では早くから三次元計測技術の導入を試みてきました。そして、この技術を骨格標本に適用し、それをデータベース化する方向性を見つけたのが、客員研究員の菊地大樹氏でした。彼の貢献により、この共同研究が始まりました。
具体的には、本データベースには人間(Human)や犬(Dog)、イノシシ(Wild boar)、ニホンジカ(Japanese sika deer)、牛(Cattle)、馬(Horse)、アシカ(Sea lion)、そしてツキノワグマ(Asiatic black bear)などの動物種の骨格情報が含まれています。さらに、”特集:かたちの比較”(Special collection: Comparison of Bone Shapes)というセクションでは、これらの種間での骨格形状の比較が可能となっています。
このデータベースはPDF形式で提供され、誰でも簡単にダウンロードして利用できます。研究室は、現生骨格標本を直接利用できない考古学研究者だけでなく、動物学や古生物学の研究者たちが、このデータベースを広く活用することを期待しています。