歴史の中で、人々と動物はどのように共存してきたのでしょうか。動物との関わりは、食文化、宗教、生活の様々な側面で人々の歴史を豊かに彩ってきました。動物考古学(Zooarchaeology)は、この複雑で魅力的な人々と動物との関係を解明する学問分野として、近年特に注目を浴びています。本日のブログでは、この分野を深く探るための5冊の書籍を紹介します。これらの書籍を通じて、古代の人々と動物との関係の奥深さを感じ取ることができることでしょう。興味を持った方、学問の入門として知識を深めたい方、是非ともこの旅にお付き合いください。

松井章著作集 動物考古学論

著:松井 章, 編集:丸山 真史, 編集:菊地 大樹
¥11,000 (2023/09/13 16:46時点 | Amazon調べ)

『松井章著作集 動物考古学論』は、新泉社から2021年7月5日に出版された、動物考古学の先駆者として知られる松井章氏の主要論文集です。松井章氏は2015年に亡くなるまで、考古学と自然科学を融合させ、日本と世界の考古学の連携を模索し、そのプロセスで動物考古学の新たな地平を切り開きました。この書籍には、松井章氏の業績を反映する重要な論文が選ばれ、各分野の専門研究者による解題が添えられています。

  1. サケ・マス漁とその利用
    • このセクションでは、ジョウモン時代のサケ・マス漁に関する考察や研究が紹介されています。特に「Salmon Exploitation in Jomon Archaeology from a Wetlands Point of View」では、湿地帯からの視点で縄文時代のサケ・マスの利用を探求しています。
  2. イノシシの家畜化
    • 野生のブタと飼育されたイノシシの区別や家畜化の過程に関する考察が行われています。「Wild pig? Or domesticated boar? An archaeological view on the domestication of Sus scrofa in Japan」では、日本におけるイノシシの家畜化の考古学的視点を提供しています。
  3. 牛馬の考古学
    • このセクションでは、古代から近世初頭にかけての牛馬に関する考古学的研究や考察が取り上げられています。養老厩牧令の考古学的考察や、近世初頭における斃牛馬処理・流通システムの変化についての詳細な研究が行われています。
  4. 研究の始まりと広がり
    • 松井章氏の動物考古学に関する多岐にわたる研究の始まりと、それがどのように発展していったのかを伝えるセクションです。「Wetland Sites in Japan」や「韓半島の動物考古学」など、多様なテーマが取り上げられており、その幅広さが伺えます。

松井章氏は、1952年に大阪府堺市浜寺に生まれ、1976年に東北大学文学部を卒業。米国ネブラスカ大学留学や東北大学大学院での学びを経て、奈良国立文化財研究所や京都大学での研究職を歴任しました。2015年に64歳で亡くなるまで、彼の足跡は動物考古学の発展に深く関わっており、この『松井章著作集 動物考古学論』は松井章氏の業績を後世に伝えるための重要な資料となっています。

農耕開始期の動物考古学

著:健, 山〓
¥5,280 (2023/09/13 17:18時点 | Amazon調べ)

農耕開始期の動物利用の謎を解明

農耕の始まりは人類の歴史において大きな転換点の一つである。縄文時代から弥生時代へのこの移行は、「狩猟採集社会」から「農耕社会」へという生業の根本的な変革をもたらした。一般的に、この時代の研究は主に稲作や他の植物利用に焦点を当てて行われてきた。しかし、山﨑健氏の『農耕開始期の動物考古学』は、農耕の導入が動物の利用、特に狩猟や漁撈、にどのような影響を及ぼしたかに注目する。

狩猟・漁撈の変化を探る

本書の主な目的は、縄文時代晩期から弥生時代の動物遺存体の研究を通じ、農耕開始期の動物資源利用の実態を解明することにある。例えば、農耕が導入された後も動物利用に変化が見られない場合、それは農耕が当時の生業において限定的な影響しか持っていなかったことを示すかもしれない。一方、明確な変化があった場合、それは新しい食物生産の形態、すなわち農耕、による生活の変化や特化を示しているかもしれない。

伊勢湾・三河湾沿岸の事例研究

本書の第I部は、動物遺存体が豊富に蓄積されている伊勢湾・三河湾沿岸の事例研究を中心に展開されている。山﨑氏の名古屋大学大学院での博士論文が基盤となっており、その内容を大幅に加筆・修正している。第II部では、事例研究から得られた知見をもとに、動物考古学の資料蓄積、方法論、さらには社会への貢献についての展望を述べている。

著者プロフィール:山﨑健

1975年群馬県生まれの山﨑健氏は、東北大学や名古屋大学を経て、現在は奈良文化財研究所埋蔵文化財センター環境考古学研究室長や、京都大学大学院人間・環境学研究科の客員准教授として活躍している。これまでにも多くの著書や論文を執筆しており、『骨ものがたり―環境考古学研究室のお仕事』や『藤原宮跡出土馬の研究』など、考古学や環境考古学の分野での彼の業績は非常に高く評価されている。


『農耕開始期の動物考古学』は、農耕社会の誕生が動物利用にどのような影響を及ぼしたのかを詳細に探る画期的な研究書である。縄文時代と弥生時代の境界にあたるこの時期の動物利用の実態を知りたい読者には、ぜひとも手に取ってもらいたい一冊である。

動物考古学のいま (季刊考古学144号) 

編集:秋山 真史, 編集:内山 純蔵
¥2,640 (2023/09/13 17:24時点 | Amazon調べ)

『動物考古学のいま (季刊考古学144号)』は、秋山真史と内山純蔵によって編集された本で、最新の動物考古学の研究動向と成果をまとめた一冊です。動物考古学(zooarchaeology)は、遺跡から発見される動物の遺骸や関連資料を通して、過去の人々と動物との関係を解明する学問です。この本は、その研究領域における現在の動向と進展を提示しています。

本書は、貝塚、低湿地遺跡、砂浜など多様な立地の遺跡での動物遺存体の発掘結果を基に、各時代における人々の動物利用方法や習慣を探求しています。特に、人と動物の関係史をどのように解釈するかという点にフォーカスしており、動物考古学研究の現状とその展望を深く掘り下げています。

内容は大きく三つのセクションに分かれています。第一部は「狩猟と漁撈」に焦点を当て、縄文時代の狩猟季節の推定や沖縄諸島における漁撈史など、具体的な研究テーマに基づいて各研究者の見解や調査結果が紹介されています。

次に「飼養と家畜」の部では、縄文時代初期の犬の骨の発見や弥生時代のニワトリの再考、さらには中・近世におけるイノシシやブタの利用についての研究が取り上げられています。これらの研究を通して、人々がいかに動物を飼養し、日常生活にどのように取り入れてきたのかを知ることができます。

第三部「海外の研究動向」では、中国やヨーロッパ、オセアニアなど、日本国外での動物考古学の研究事例や進展が紹介されています。特に、リャマやアルパカの家畜化過程や、イギリスのピカリング盆地の遺跡など、国際的な視点からの動物考古学の研究が盛り込まれています。

編集者である秋山真史は、東海大学の講師として活躍する一方、『海洋考古学』などの著作も手掛けています。一方、内山純蔵は、セインズベリー日本藝術研究所のハンダ考古学フェローとして活動しており、『縄文の動物考古学』など、多数の研究著作を発表しています。

『動物考古学のいま (季刊考古学144号)』は、動物考古学の最新の研究動向や進展を知りたい人にとって、非常に価値のある一冊と言えるでしょう。

動物考古学

著:松井 章
¥70,280 (2023/09/13 17:31時点 | Amazon調べ)

『動物考古学』(Fundamentals of Zooarchaeology in Japan)、著者・松井章による本書は、動物考古学分野における研究者や学生、そしてその他の専門家たちにとって極めて基本的で重要な手引書となっています。この手引書(handbook)は、特にアジア太平洋地域における動物の骨格同定に焦点を当てており、考古学的発掘現場においては欠かせない資料です。

本書の特徴は、著者自身が長年のフィールドワークを通じて収集した骨格標本に基づいて、詳細かつ体系的に動物の骨格について解説している点にあります。その内容は、動物考古学を独学で習得するのが難しいとされる中、骨格標本の知識や取扱技術に精通するためのものとなっています。

さらに、この書籍はアジア太平洋地域の研究や学習を考慮して執筆されているため、すべての記述には英訳(English translation)が添えられています。これにより、非日本語話者でも内容を理解することが可能です。

内容をさらに詳しく見ると、第1章から第10章まで、動物の骨格に関する様々なテーマが段階的に解説されています。初めに動物考古学の基礎知識として、骨格の構造やその見方、遺跡から出土する動物骨の同定方法などが説明され、次いで発掘調査法や土壌選別法についての技術的な詳細が続きます。

動物群ごとに、魚類、両生類・爬虫類、鳥類、中・小型哺乳類、大型野生哺乳類、大型家畜、海生哺乳類と、最後に人骨について、それぞれの特徴や主要部位の同定方法などが詳細に解説されています。特に、イヌの体格の推定や、イノシシとニホンジカの齢査定、ウシとウマの計測と齢査定など、特定の動物に関する詳細な情報も提供されており、専門家だけでなく、動物考古学に興味を持つ一般読者にも非常に有益な内容となっています。

この『動物考古学』(Fundamentals of Zooarchaeology in Japan)は2008年に京都大学学術出版会よりバイリンガル版として出版されており、その内容は動物考古学の分野において、持っているべき基本書と言えるでしょう。

事典 人と動物の考古学

編集:豊弘, 西本, 編集:倫子, 新美
¥3,520 (2023/09/13 17:39時点 | Amazon調べ)

『事典 人と動物の考古学』は、西本豊弘と新美倫子という二人の著名な研究者によって編集された、日本の動物考古学に特化した読む事典です。この書籍は、原始時代から明治初頭にかけての日本人と動物との関係を深く探求しています。動物考古学(Zooarchaeology)は、過去の人々と動物との関係性を理解するために、発掘された動物の骨や遺物を研究する学問分野です。

この事典の特徴として、単に動物の骨の同定や利用法にとどまらず、動物との解体方法や料理法、さらには絵馬や埴輪、古墳に描かれた動物などの文化的側面にも焦点を当てています。これにより、日本の歴史における人々と動物との多様な関係性が、より幅広い視点で詳細に紹介されています。

事典の中で、西本豊弘・新美倫子による「動物考古学の世界」という節では、動物考古学とは何か、その始まりや発展、日本の原人や貝塚からの発見物、魚の骨の調査法、野鳥や虫の考古学など、多岐にわたるテーマが取り上げられています。また、古墳時代の動物やシカとウシの角の違いなど、具体的な内容も紹介されており、読者は動物考古学の奥深さを感じることができるでしょう。

さらに、動物を「捕らえる」「食べる」「飼う」「利用する」「占う・祈る」といった異なる側面からアプローチすることで、日常の生活や信仰、文化など、日本人と動物との関わりを多角的に解析しています。

著者の西本豊弘氏は、早稲田大学や北海道大学での学びを経て、国立歴史民俗博物館研究部教授として活動しており、その専門的な知識と経験が事典に生かされています。一方、新美倫子氏は、東京大学や名古屋大学での研究を経て、名古屋大学博物館の准教授として活躍しています。二人の研究者が結集したこの事典は、動物考古学を学びたいという人々にとって、非常に価値のある資料と言えるでしょう。

『事典 人と動物の考古学』は、動物考古学に興味を持つすべての人々にとって、理解を深め、学びを広げるための貴重な一冊となっています。

まとめ

How do we decipher the history of human-animal relations?
人と動物の関係史をどう読み解いていくのか。

動物考古学(Zooarchaeology)は、古代の人々と動物との関わりを解明する学問分野として、近年注目を集めています。以下の5冊の書籍は、この分野の基本から先端的な研究までを網羅しており、初学者から研究者まで幅広く読むことができる内容となっています。

『松井章著作集 動物考古学論』は、動物考古学の基本的な概念や方法論を解説している。松井章の豊富な研究と経験を基にしたこの著作は、学問の基盤をしっかりと理解する上での必読書といえます。

次に『農耕開始期の動物考古学』は、農耕が開始される過程での人々と動物との関係に焦点を当てた一冊です。この時期の変遷を通して、人々がどのように動物を利用し、共生してきたのかの歴史的背景を詳細に探求しています。

『動物考古学のいま (季刊考古学144号)』は、動物考古学の最新の研究動向や課題を紹介する雑誌特集号です。最先端の研究や取り組みを知りたいという読者にとって、非常に参考になる一冊といえるでしょう。

『動物考古学』は、分野の概要を包括的に紹介する基本的なテキストです。初学者や学生がこの学問を学ぶ際の入門書として最適であり、基本的な知識から具体的な事例まで幅広く取り上げられています。

最後に『事典 人と動物の考古学』は、原始時代から近代にかけての日本における人と動物の関係を詳細に解説する読む事典です。西本豊弘と新美倫子による編集で、日本の動物考古学の成果や歴史をわかりやすく紹介しています。

総じて、これらの書籍は動物考古学の分野において、基本から応用、歴史的背景から最新の研究までを網羅しており、読者はこの学問の奥深さと幅広さを体感することができます。これらを通して、人々と動物との関係の変遷やその背後にある文化や社会の動向を理解することができるでしょう。