近年、考古学における機械学習(machine learning)の使用が増えています。機械学習は、大量のデータを効率的に分析し、人間が見逃しがちなパターンを発見するための強力なツールとなります。以下に、最新の研究から見る、考古学における機械学習の応用について述べます。
Machine Learning–Based Identification of Lithic Microdebitage

石器製作の過程で発生する微細な薄片、いわゆる”lithic microdebitage”の分析は、古代の人々の行動や技術を理解するための重要な手がかりを提供します。これまでの微細石器の分析は、主に手作業で行われてきました。しかしこの手作業による分析は、観察者間で結果が異なる可能性があり、また一般化が難しいという問題がありました。
この研究では、実験的に生成された石器微細片(5,299個)と考古学的土壌サンプル(73,313個)の各粒子を測定するために、動的画像粒子分析器を使用しています。そして、Naïve Bayes(単純ベイズ)、glmnet(一般化線形回帰)、random forest(ランダムフォレスト)、XGBoost(Extreme Gradient Boosting)の4つの機械学習モデルを開発しました。
モデルの性能は、ハイパーパラメータの調整によって最適化されました。最も優れた性能を示したのはrandom foresモデルで、感度は83.5%でした。このモデルでは、微細石器の0.9%(28個)しか誤分類されませんでした。XGBoostモデルは67.3%の感度を達成しましたが、単純ベイズとglmnetモデルは50%以下の感度でした。
この研究は、機械学習を利用することで微細石器分析を客観化し、標準化する新たなアプローチを提供しています。さらに、機械学習を使用することで、より大きなサンプルサイズの分析が可能となり、各アルゴリズムの違いに応じて最適なモデルを選択することが可能となります。
Eberl, M., Bell, C., Spencer-Smith, J., Raj, M., Sarubbi, A., Johnson, P., . . . McBride, M. (2023). Machine Learning–Based Identification of Lithic Microdebitage. Advances in Archaeological Practice, 11(2), 152-163. doi:10.1017/aap.2022.35
Machine learning for stone artifact identification

石器は考古学的な遺跡で最も頻繁に見つかるオブジェクトの一つであり、その確実な識別は経験豊富な分析者の数に制限されています。この研究では、エジプト、オーストラリア、ニュージーランドの3つのケーススタディの場所から得られた、加工石器と岩石の画像(合計6769枚)を用いて、深層学習モデルを訓練・試験しています。使用されたモデルは、PyTorch実装のFaster R-CNN ResNet 50というものです。
モデルの結果は、元の人間による分類と100%一致し、2人の人間の分析者が2次元画像を再評価した結果よりも優れたパフォーマンスを示しました。この結果は、深層学習ネットワークが大量の考古学的な集合体を一貫して評価する可能性を示しています。
このように、この研究は深層学習を使用して石器と自然な石片を区別する新しい方法を提供しており、これにより大量の考古学的な集合体の評価が可能となることを示しています。
Emmitt J, Masoud-Ansari S, Phillipps R, Middleton S, Graydon J, Holdaway S (2022) Machine learning for stone artifact identification: Distinguishing worked stone artifacts from natural clasts using deep neural networks. PLoS ONE 17(8): e0271582. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0271582
Migration of Alpine Slavs and machine learning
![Graphical representations of selected methods: a) space-time cube model (after ESRI); b) comparison of two types of inference: On the left, data from different fields are compiled to draw a unified conclusion (analysis of Pohl’s [17] interpretation of our study region as an example), and on the right, consilience.](https://sitereports.site/wp-content/uploads/2023/06/journal.pone_.0274687.g002-1024x513.png)
この研究の目的は、いわゆる「ハイブリッド仮説」を検証することでした。この仮説は、人々の移動、文化の拡散、言語の拡散が同時に行われたと主張しています。この目的を達成するために、研究者は機械学習手法である時間系列クラスタリングと新興ホットスポット分析を用いて、深層データセットを分析しました。特に、新興ホットスポット分析には、考古学特有の修正が二つ必要でした:考古学的トレンドマップと多尺度新興ホットスポット分析です。
その結果、研究者は紀元500年から紀元700年の間に東アルプスで二つの移動を検出することができました。考古学、言語学、人口遺伝学の証拠の一致から、移民とされる人々をアルプススラヴ人(スラヴ語を話し、特定の共通の祖先を持つ人々)と識別しました。
つまり、この研究は機械学習と空間時間パターンマイニングを用いて、考古学的データセットから新たな洞察を得ることで、古代の人々の移動と文化の拡散について新たな理解を提供しています。
Štular B, Lozić E, Belak M, Rihter J, Koch I, Modrijan Z, et al. (2022) Migration of Alpine Slavs and machine learning: Space-time pattern mining of an archaeological data set. PLoS ONE 17(9): e0274687. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0274687
Archaeological Predictive Modeling Using Machine Learning and Statistical Methods for Japan and China
![Overview of our model’s architecture. First, one-hot embedding [57,58] is used to embed each topographic factor. Then, we utilize a conditional attention mechanism to learn the different weights of the input factors in relation to archaeological sites and estimate archaeological site locations. The whole model is trained end-to-end.](https://sitereports.site/wp-content/uploads/2023/06/ijgi-12-00238-g005-1024x464.png)
考古学的予測モデリング(APM)は、特定の地域で考古学的遺跡の存在確率を定量的に評価するための重要な方法です。これは考古学的研究と文化遺産管理のための必要なツールであり、人類と自然環境との関係を理解するのに役立ちます。さらに、人間と土地の関係のメカニズムを理解することは、持続可能な開発の新たなアイデアを提供する可能性があります。
本研究は、日本列島と中国の陝西省の考古学的遺跡における地形と水文学的要因の影響を調査することを目指しています。そのため、研究者は深層学習の条件付き注意機構(AM)と頻度比(FR)モデルを使用したハイブリッド統合アプローチを提案しています。さらに、独立したFRモデルと広く使用されている機械学習のMaxEnt方法も採用されています。
モデルの出力は、4分割交差検証法を用いて相互に確認され、モデルのパフォーマンスは受信者操作特性曲線(AUC)とKvamme’s Gainを用いて比較されました。その結果、両地域でAM_FRモデルが最も良好なパフォーマンスを示しました。
つまり、この研究は、日本と中国で考古学的遺跡の存在確率を予測するために、機械学習と統計的手法を組み合わせた新たなアプローチを示しています。
Wang Y, Shi X, Oguchi T. Archaeological Predictive Modeling Using Machine Learning and Statistical Methods for Japan and China. ISPRS International Journal of Geo-Information. 2023; 12(6):238. https://doi.org/10.3390/ijgi12060238
総括
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近年、機械学習は考古学の研究において非常に重要なツールとなっています。これらの技術は、遺物の識別から遺跡の予測モデリングまで、様々な分野で使用されています。

例えば、石器の微細な破片(マイクロデブリテージ)の識別において、機械学習は手作業によるアプローチと比較して、より客観的で標準化された分析を可能にし、大規模なサンプルの研究を可能にしています。さらに、ディープニューラルネットワークは、人間の専門家が行うよりも一貫性のある識別を可能にするため、石器の分類にも使用されています。

また、機械学習は時間系列のクラスタリングやホットスポット分析のような手法を用いて、人々の移動や文化の拡散について新たな理解を提供します。これは、アルプス地方のスラヴ人の移動についての研究で見られます。
さらに、機械学習と統計的手法の組み合わせは、考古学的遺跡の存在確率を予測するための強力なツールとなります。これは、日本と中国での考古学的予測モデリングの研究で見られます。

これらの研究からわかるように、機械学習は、大量のデータを迅速に処理し、高度に複雑なパターンを認識し、新たな洞察を得る能力を考古学者に提供します。これは、手作業や古典的な分析手法では達成できないレベルの精度と一貫性をもたらします。機械学習の進化により、考古学は、遺物の識別から遺跡の予測、さらには古代の人々の行動の解析に至るまで、未知の領域を探求する新たな道を開いています。